壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

マカオ旅行記4 レトロ散歩@北部


年末年始の観光シーズン。昼頃に大三巴の辺りを通った時には前に進めないほどの大渋滞。
なので人混みが予想される大三巴やセナド広場は避け、ローカルエリアをお散歩してました。

そもそも澳門ももう4回目で観光の必要はなく、自分が求めているのも、西洋の香りでもカジノでもなくレトロ中華的生活風景なのでこれでよかった。

今回はローカルな風情が楽しいけど観光客にはあまり注目されていない穴場、澳門北西部をお散歩した記録です。

前回:マカオ旅行記3 中華的あの世を覗く - 壺中天

概要:澳門半島北西部


澳門には色々な顔がありますが、澳門半島北部は観光地も少なく、あくまで日常生活の場という感じです。街並みも、中心部にあるような南欧風建築はなく無骨な集合住宅が多い。

しかしそれがいいんです。地元住民になったつもりで、ふらっと散策するのが北部の楽しみ方。

龍華茶楼でゆっくり朝食

スタートは澳門を代表する大市場紅街市と、その隣にある龍華茶楼。別に買い物するわけではないのですが市場の雰囲気が好きなので、目的はただそれを見に行くだけ。

(イメージ。別の市場です)

今回宿泊したホテル・ギア(東望洋酒店)は高台にあり上り下りも一苦労だが、さいわい目の前のバス停から紅街市行きのバスが出ていた。坂を下りてカジノエリアを迂回、セナド広場前の大渋滞を抜けて(20分はかかった)海沿いの大通りを北上。雑然とした市街地でバスを降りる。


お目当ての紅街市は…あれれ、なんと工事中!

市場周辺では食料品・日用品の露店が営業していた。でも市場というにはちょっと物足りないかも。

紅街市の向かいにある建物の2階・3階が目当ての龍華茶楼。ずっと行きたいと思っていたのですが、タイミングが合わず今回が初訪問。幸いやっているようだ。タイル張りの階段を上っていくと、カウンターにいた老板が案内してくれる。

「何飲む?ジャスミン茶?白茶?○×…」いろいろ案内してくれるが、全部は聞き取れない。とりあえず分かった白茶をオーダーし窓際の席に着く。
時間は朝10時頃。中途半端な時間だったこともあってかお客はあまりおらず、おそらく地元の人が2~3組ほど。めいめいのんびりと時を過ごしていた。

龍華茶楼は歴史の古い茶楼で、お茶と広東式の点心が楽しめる。

緑を基調とした店内はレトロの一言。
タイル張りの室内にシーリングファン、木の座席。背もたれがちょっとぐらつくのも年季を感じてまたよし。
メニューや店内の注意書きは手書き、しかも筆写!店内には書画も多く飾られているので、書を愛する店主の趣向なのかな?

昔は中国名物・愛鳥家のおじさん方が鳥籠を持って訪れ、鳴き声で賑やかであったそうだが、鳥インフルエンザの流行を機に鳥の持ち込みは禁じられ、今は窓辺にそっと佇む鳥籠が往時を偲ぶのみ。

ベランダにずらっと並ぶ盆栽もしっかり手入れされているようで、常連らしいお客さんと老板が、ベランダに出てあれこれ談笑しているのも見かけた。

お茶に書画、盆栽…。まるで優雅な文人のサロンのような雰囲気も感じますね。

店内には年季の入った家具や骨董が並び、古道具の博物館のよう。茶楼らしく、年季の入ったプーアル茶の塊も。何故か置いてあるバスケットボールも味がある。


お茶と一緒に点心のメニューがやってきた。ラインナップはマーラーカオ(蒸しパン)、チャーシューまん、鶏モミジの豆鼓煮など広東式点心が中心。
お茶は20元。点心は一つ30元。出来上がると、蒸籠に入れて運ばれてくる。

点心は特別美味しいというわけではなく、飾り気のない庶民的な味。

だから美食を楽しみに行くというよりは、昔と変わらぬ空気の中、時間をかけてお茶を飲んで、ゆったり時を過ごしに行くのがピッタリな場所だと思った。私もここで2時間くらい、のんびりお茶を飲みながら日記を書いていた。

お湯はセルフサービスで、急須のお湯がなくなると給湯器につぎに行く。茶葉はかなり出が良くて、継ぎ足し5回、10杯以上は飲んだと思う。ようやく出がらしになったころ、席を立ってお勘定へ。ポストカードを頂いた。

市場を巡る

龍華茶楼を後にし、紅街市の南に延びる高士徳大馬路から脇道に入り、東南方面に向かう。この辺りは、活気のある露店市場街となっている。(ちなみに旅行記3で紹介した竹林寺はこの辺にあります)


野菜、魚、肉、焼味(広東式肉のロースト)、乾物、エスニック食材、衣料品に仏具までありとあらゆる店が軒を連ねており、賑やかで楽しい。


お肉屋さんの店先。臘肉(豚バラの中華干し肉)に腸詰、金華ハムなどなど。日本で買うと高いしちょっと欲しかったけど、検疫に引っかかって持ち込めないからね…。大人しく上野や池袋に行くとします。
このお店では鍋の具としてお気に入りの腐竹(棒湯葉)を発見し、安ければまとめ買いしようと思ったが日本円で300円ほど。うーん、あまり変わらないか。

香港・澳門の市場でよく見る赤いランプ!レトロ中華感あって好きなやつです。

よく見ると、「取引に不信があったらこの番号まで」と言う市政府からの布告が。ここでも治安が強化されている。

結局何も買わなかったけど、赤いランプとか豪快にぶら下がる肉製品とか、市場欲は大分満たせました。

蓮渓廟周辺

市場街を後にし、骨董市が立つ蓮渓廟の辺りを西に進んでいきます。

思いがけない出会い

通り道にあった何気ないお店(明發家庭用品)。

食器や文房具、金物、仏具などを幅広く扱う日用品店です。ちょっとした神様グッズを買おうと思い覗いてみました(専門店より買いやすいから…)。
バッグをぶつけないよう気をつけながら狭い通路に踏み込む。店内に所狭しと置かれた商品を見ていると、可愛い食器を発見!

鶏の図柄は「鶏公」といって、香港澳門や広東華僑のいるシンガポール辺りでよく見る定番デザイン。公というのはオスと言う意味があるので雄鶏ということなのかな。とぼけた顔が可愛いですね。形や大きさも色々ありました。

福の字が描かれたお茶碗も可愛い。思い切り値段が書いてありますが水性ペンなので洗えば落ちました。ちなみに奥のは民家の戸口でよく見るブリキの香炉。こういうのを持ち帰ってマカオ感に浸りたくて…。お茶碗は160円、香炉は120円くらい。鶏公のお皿はどうだったかな、でも200円はしなかった。激安!

ローカル商店でお宝さがし、澳門の楽しみをまた見つけた。

カモンエス公園

澳門北西部にある大きな公園、カモンエス公園へ。丘が丸ごと公園になっていて、起伏があって緑豊か。名前はポルトガルの詩人ルイス・カモンエスに由来しています。

市民の憩いの場


ここは市民の日常を垣間見られるのが楽しいです。

公園前の広場では愛鳥家のおじさん方がフェンスや木の枝に鳥籠をひっかけて談笑し、公園内でも扇を片手に女性たちが演舞していたり、写生会をやっていたり、おじちゃんたちがたばこの臭いをぷんぷんさせながらカードに興じていたり、健康器具でエクササイズしていたり。

健全でいいですね。こんな老後を送りたい。

バードウォッチングの穴場を発見!

アホみたいに多趣味でバードウォッチングもその一つなのですが、澳門の鳥の顔触れはやはり日本とは違う。それを期待して2kg近くある超望遠レンズを背負ってきたのですが…無駄にならずに済んでよかった。

人の多い公園内では、鳴き声はしてもあまり姿を見ることが出来ず。しかし!一角に穴場スポットを見つけたので、しばらくそこで鳥を見てました。

ここの何がいいかって、
①高台なので、樹上に来る鳥たちを目線の高さで見ることができる
②柵があるので警戒されにくい
③実がなってるので実を食べに鳥が集まってくる。食事のシーンも見られる

と非常に好条件が揃っているのです。

赤いほっぺが可愛い、コウラウン。日本でもよくいる、ピーヨピーヨと甲高い声で泣いているヒヨドリの仲間です。澳門ではよく見かけました。木の実が大好きな模様。

日本でもおなじみのメジロちゃん。ただ、ミナミメジロといって少し違うらしい。首元がレモン色なのが特徴らしいけど、あまり本家との違いが分からない。

なんと野生のキュウカンチョウ。とはいえ原産地はインドなどもっと南で、ペットが逃げて野生化したらしい。

リスもいましたよ!

とはいえバードウォッチングを求めるなら自然豊かな南の方がおすすめだと思いました。鳥との距離が近いし、見られる種類も多い。後日南部コロアネ島の旅行記を書くので、詳しくはそちらで。

歩き疲れて…

ここまで来て、楽しいけれども足はかなり限界がきていた。もう痛すぎて、ちょこちょこ休憩入れないと歩けない。

こういう時に安くマッサージにかかれるのはアジア旅行の強みなんですけど、澳門だとカジノホテルの高級スパか、半島東部、埋め立て地の方まで行かないとあまり見かけなくて。ホテルに割と近い所にもマッサージをやってる「桑拿(サウナ)」がちらほらあるようだけど口コミ見たら「女の子が皆可愛かった」とかなんか怪しいし、店に行くのにも労力を使う感じで諦めかけていたのです。

そんな折、公園出口付近に「按摩」の看板があったので、つられて行ってみた。雑居ビルの一階にそのお店はあったのだが。


うーん、渋い…!!

少々二の足を踏むが…いや、そもそも澳門の街並み自体渋いし広告でも20年の歴史、とか政府公認、とかアピールしていたし危ないこたないだろう!と思って飛び込んだ。
「你好…」とおずおず声をかけると、テレビを見ていたおばちゃんがニコッと笑って「ハロー」。ラミネートされた料金表を見せてくれる。

一番安いのは45分158元。これで、と言ったらちょっと薄暗い別室に通され、少しコワモテのおばちゃんがやってきた。なんとなくけだるげで、ひーお手数掛けてすみません、とか思っていると「どこから来たの?」コワモテが気さくにゆるんだ。

カタコトながらも意外と会話も弾み、観光?何日いるの?(澳門で)どこに行った?等々お決まりのやり取りをしつつ、こちらも澳門で気になっていたことを聞くことが出来ていい機会になりました。(澳門の人たちって夜型だけどいつごろ寝るのか、とか。←12時くらいらしい)

久々で耐性が鈍っていたけど、こういうローカル系のマッサージ店にはいろんな所で入って外れを引いたことは今のところないので、あまり恐れずとも大丈夫…と思っている。今のご時世口コミとか前評判気にしすぎて動きが鈍りがちですが、飛び込んでみると意外と得るものがあります。もちろん、常識の範囲内で判断は必要だけど。

足も多少復活したので、街歩きを続ける。

沙梨頭探検

カモンエス公園のふもとに広がるのは沙梨頭と言うエリア。かつては漁村だったところです。

ここには土地神をまつる立派な廟がある。
境内にある碑によると、南宋の景炎二年(1277)、元軍に追われた幼帝・端宗が広東に逃げてきた。その際澳門西部の湾(いまの内港)に駐屯したことがあったので、土地廟の社号を帝の陵墓「永福陵」の名を取って「永福社」としたのだとか。実際の創建は18世紀の清代らしい。

広東と来たら中国も南の果てなので、南宋も随分ぎりぎりまで抵抗したのだな。端宗は享年11歳、その弟で最後の皇帝趙昺が、崖山の戦いに敗れ海に散ったのが7才の時。壇ノ浦の戦いを思わせる、悲しい話だ…。
フビライ南宋滅ぼして晴れて大軍送ってきたのだし、我々にも関係のない話ではないんだよなぁ。日本はつくづく海に守られてたと思うよ。

ちなみに、土地廟の奥には公衆トイレとカモンエス公園につながる出入り口があります。

海と職人の街

土地廟からちょっと西に行けば、大通りの「沙梨頭海邊街」。
信号のない横断歩道は車とバイクの往来が途切れず、中々の強敵。ようやく対岸に辿り着き、ちょっと歩けば海辺に出る。漁村だったころの名残で、今でも船着き場があったり海産物の加工所があったりして、ちょっと生臭いにおいが漂ってきたりする。

そういう土地柄のため、沙梨頭周辺には「魚鱗里」「珊瑚里」「魚釣里」など海にちなんだ地名が多く往時を想像させてくれる。

もしくは、「石版里」「金針里」など職人が多く住んでいたのを思わせるような名前の路もありました。

歴史の古そうな造船学校。右は会館とあるので、造船業者の同業組合と思われます。
今では造船所は見当たらないけど、その流れを汲んでいるのか、自動車・バイクの修理工などエンジニアが集まっている感じでしたね。

初めて見た、野生のスターフルーツ

楽しい下町迷路

旧時に思いを巡らせながら、沙梨頭の町を南下していく。この辺はとにかくそぞろ歩きが楽しい。わき道にそれてみれば、シャッターの奥から麻雀牌を混ぜる音が聞こえてきたり。

角を曲がれば、煙がくゆる土地神の祠。その奥から聞こえる甲高い声は、小さな工場の店先、バイクシートで歌う籠の鳥。

海から風が吹いてきた。縁起物の風車がカラカラと回り、運んでくるのはパン屋さんのいい匂い。

特別何があるわけではないけど、どこを歩いても郷愁とちょっと不思議な光景に誘われてワクワクする。沙梨頭というのはそんな場所です。

次に行った時も、また歩きに行くと思う。

旅の終わり

次の目的地は、老舗が集まる十月初五街。ここには単に買い物のため立ち寄りました。詳しくは割愛しますが、麺とお茶を買って、通りを下りきると観光地でお馴染みのセナド広場。

この日は1月2日なんですが、言うまでもなく中華圏にとって正月は春節のこと。だからメリークリスマス・ハッピーニューイヤーはセット扱いで、25日を越えても装飾は切り替えない。そのシーズンが終われば、原色の龍やランタンが登場するのでしょう。町のお店の干支飾りも兎のままでしたしね。

ギラギラした質屋街のネオンを見物し、この日はホテルに歩いて帰りました。

異論もありそうですが、個人的にはこれぞ澳門!な一日でした。
【地図再掲】