澳門は夜も賑やかだ。
ギャンブラーの集まる享楽の街なら当然だろうと言われそうだけども、実はそういう意味ではない。
カジノがあろうとなかろうと、澳門はそもそも夜型の街なのだ。
日付が変わりそうな時分になってもバスは満席、町には人の姿も多い。一般的な食堂や街角の屋台も深夜までやっており、若者どころか子供連れがいたりもする。
こういう所にいると、ホテルにいるのも勿体なくなってしまって、つい夜更かしして散歩に出たり、普段ではありえないような遅い時刻に食事をしてしまったりする。それもまた非日常の楽しみ。
今回のテーマは夜。夜景スポットや澳門の町の夜事情などをご紹介します。バーやクラブなど一般にいう「ナイトスポット」には行かないので、あくまで夜景と街歩きが中心です。
今回出てくる地名と大まかな地図です。
澳門夜景百景
タイプ別の夜景スポット紹介。見てみたい景色があれば幸いです。
極彩ネオン編
新口岸
澳門の夜景スポットと言えば、真っ先に上がるのは何といってもホテル・リズボアを中心とした澳門半島のカジノ街。非日常を演出してくれるユニークな建物の数々、極彩色のネオンはまさにカジノの町の面目躍如だ。
歴史の古いホテルも多く、この辺りのイルミネーションは原色ギラギラでレトロ感・中華感が強い。この俗っぽさがまた魅力と言えるだろう。
カジノホテルの周辺には宝飾品店や高級食材店、薬屋など貴重品を扱う店も集まり、成金趣味な金のアクセサリーやツバメの巣が店頭を飾っている。
そしてよく見るこの看板は「押」、つまり質屋。ギャンブラーの駆け込み寺だ。質流れのブランド品目当てに、わざわざ海外からここまでやってくる客もいるのだそうだ。「珠宝鐘表公司」とあるので宝石やロレックス等の高級時計を扱っているのだろう。
この辺りを歩いて思うのは、非常に「中国らしい」場所であるということ。それは何もデザインや色彩だけの話ではない。
テーマパーク的な造りと高級感、洗練されたアミューズメントで「夢の国」を演出しているコタイの外資系カジノリゾートとは違って、ここにある「夢」はもっと現実的で、欲望と呼んだ方が近いようなものだ。
だからここはあくまで現実の国。あるのは欲望、戦略、勝者と敗者、彼等のためのシステムだ。
一方そこには、清濁ひっくるめて人間らしさと肯定し迎え入れる懐の深さがあるようにも感じる。
むき出しの現実主義、拝金主義、人間主義。
私が「中国らしい」と感じるのはそういう所で、面白いと感じるのもまたそういう要素なのだと思う。
だから澳門を訪れると、用もないのに新口岸を歩きたくなる。地理的な遠さを別にしても、コタイのカジノ地区に対してこういう引力は感じない。
単なる好みの問題だけど、観光地化された中華街よりガチ中華地区の方が面白いと感じるのと同じで、私が好きな「面白さ」は、誰かに向けて美しく快適に整えられた所にはないんだろう。
強欲は悪徳。道徳の衣を着こんで日々を過ごしている我々だけれど、
ちょっとだけ、それを脱ぎ捨ててみようか。新口岸はそんな気分にさせてくれる場所だ。
それも極彩色の罠かもしれないけど、嵌まってみるのも一興かもしれない。
南灣湖沿岸
エリアの全体像を見るなら、南灣湖の対岸からがおすすめ。
ホテル・リズボア前からは地下道でウィンマカオ前に出られる。そこからマンダリン・オリエンタルの辺りまでまっすぐプロムナードが伸びており、対岸までは500mほど、10分もあればたどり着ける。
バスで直接行くこともできるけど、メジャーな路線はあまり通らないので歩くのが一番手っ取り早いです。なんたって澳門は狭いから…
こちらは対岸ではなくプロムナードから撮ったもの。マカオタワーとタイパ大橋のパノラマです。船着き場なのかプロムナードの途中には1か所湖面に続くスロープがあり、ここからだと植え込みなどに邪魔されないので写真撮影におすすめ。
ここから見るタイパ大橋が大好き。
西洋情緒編
ド派手なのは好みじゃない…という人には、しっとりとした西洋情緒を味わえる旧市街がおすすめ。
セナド広場周辺
セナド広場は派手なライトアップこそないが、シーズンごとの飾りつけが見もの。今回の訪澳は年末年始だったためクリスマス仕様、今頃は春節仕様になっているのだろう。セナド広場周辺の盛り場、例えば福隆新街なども同様の飾りつけがされているので合わせて楽しめる。
…とはいえ、こうなると逆に本来の姿が見られないので、純粋に街並みや建物を楽しみたい場合は、祝日シーズンを外した方がいいかもしれない。今までの経験上、中元節や清明節クラスの祝日なら飾りつけはなかったな。
大聖堂周辺
セナド広場に近い大聖堂(大堂)。
観光地としてはそこまでメジャーではないが、周辺は噴水のある広場、タイルと石畳、鉢植えを吊った街灯などいかにも南欧の町の一角という風情でお気に入りの場所だ。
高台にある大聖堂周辺の坂道には聖母子像やタイル絵をあしらった噴水があり、これまた情緒満点。
大聖堂周辺はポルトガルや大航海時代の風を感じる雰囲気があっていいんですよね。この噴水も夜に見たら素敵だろうなぁ。
この辺りには澳門名物・咖喱魚旦(カレーおでん)など軽食を売る店も集まっているので、そういう意味でも夜の散策が楽しい所。
ラザロ地区
聖ラザロ教会一帯の「ラザロ地区」は歴史の古い洋館が多く、瀟洒な街灯やカルサーダス(石畳で模様を描いたもの)もあり澳門の中でも特に西洋的な香りの漂うエリアだ。カジノエリアのように派手なライトアップはないので、街並みそのものを楽しむ所といえる。
ラザロ教会近くには、モンテの砦方面に上がっていく階段の道(斜巷)が何本かある。とくに教会前から続く「瘋堂斜巷」には古い建物を改装したアートスペースがあり、その周辺は特別な飾りつけがされていることも。
2017年に訪れた時はガロ(雄鶏)やウサギのランタンが飾られていた。時期は3月下旬。清明節は関係なさそうなのでもしかしてイースター関連だったのだろうか。
今回はギアの丘(後述)から眺めただけだったが、クリスマスマーケットが見えたので年末年始に訪澳するなら行ってみるといいかもしれない。
パノラマ編
街を一望できる夜景スポット二選。
マカオタワー
眺めの良い所といえば、定番はマカオタワー(旅游塔)だ。半島部の南端にあり、澳門半島やタイパを一望できる。
勿論夜景も見えるんですが、香港や上海のようなきらびやかさを期待してはいけない…
(機内から見た香港市街)
というか、ちょっと位置取りが惜しいんですよね。半島部にしてもコタイにしても、海や湖を挟んで見る形になるのでどうしても臨場感に欠けてしまって。
この写真は10年前のものなので、今見たらまた印象が違うのかもしれない。しかし新しい施設がどんどんできて変化しているのはむしろ南のコタイ地区。ではそこの眺めはどうかというと…
これも10年前のものとはいえ、すでにあったヴェネツィアンも良く見えないし何より遠い。うーん。
やっぱり近いところで見るのが一番かも。
ギアの丘
澳門はまるでローマのような「丘の町」だ。市内にはモンハの丘、ペンニャの丘などいくつもの丘があり、登ればそれぞれの眺望が楽しめる。
その中でも澳門半島東部にあるギアの丘はマカオで一番標高が高い丘で、頂上には灯台を擁するギア教会がある。灯台は現役で使われており、そのため夜は見学できない。
一番高い丘だけあって見晴らしは良いけど、ちょっと外れた所にあるしアップダウンが激しいので普段はあまり行かないのですが、2023年の旅程ではギアの丘のたもとにある「ホテル・ギア」に宿泊したので、夜景を見たりバードウォッチングしたりで毎日のように通ってました。
その分ホテルまでは毎日上り坂で大変、気軽に戻って休憩できない立地なのも少しネックだったけど、ホテルの屋上テラスや丘からの眺めは最高だったので目的によりけりですね。脇道にそれればエスカレーターもあったし。
さて、ギアの丘に夕景~夜景を見に行ったのは12月31日と1月1日の2回。31日は年末年始×日曜日のコンボで物凄い人出、しかも夕焼けが見られず散々だったのですが、2日目は見事なオレンジ色の夕焼けを見ることが出来ました。
しかしギアの丘、夜景を見るならよくても「撮る」のは結構難しいのです。
灯台まで登ってしまえば展望台があり、木々に視界を遮られることもなく市街地のパノラマが存分に楽しめる。しかし夜には灯台の「お仕事」が始まるため、18時には閉まってしまうのだ。今回は日の入りが17時50分頃だったので、一番夜景がきれいに見えるブルーアワーまではいられなかった。
そうなると1段低い通路から撮るしかない。するとどうしても木々が建物にかぶってしまうし、夜景をちゃんと撮るなら三脚もセットしたいのに、道は狭いし、足場が悪いし、視界が開ける所は人も集まり、じっとしているわけにもいかないから難しい。
ようやく木がなくていい場所を見つけたと思ったら、下に照明があって余計な光が入ってしまうしで、条件を揃えるのがとにかく難しい。
灯台が閉まる18時前に陽が落ちる時期を選んで行くのがベストだと思うけど、それでも今回は冬至に近い日程だったし難しいのではないかと思った。
まぁ、大人しく肉眼で楽しむのが余計なストレスもなく一番ですね。夜に限らず、市街地の見晴らしなら一番の場所なので、訪澳の機会があったらぜひ一度訪れてみてください。
特別編~澳門で年越し
今回は澳門で年越ししたので、もちろん新年の花火も見てきましたよ!
ホテルのフロントで聞いてみると場所はマカオタワー。西灣湖や南灣湖の沿岸で見られるとのことだった。歩いて行ける距離だったので、22:30頃に坂を下って、新口岸のホテル街を抜けてウィンマカオ側のプロムナードに向かった。
1時間前だが既に人はたくさんいる。湖岸の岩場に座り込み、尻の痛みやたばこ臭さと戦いながら24時を待つ。
日付が変わる10秒前くらいから周囲でカウントダウンの声が上がり、1月1日になったらマカオタワーから花が咲くように、花火が打ちあがった。
正直な感想を言えば、地味だった。
予想していた音楽、サーチライトやマッピングの演出もなく、淡々とタワーから花火が打ちあがって終わった。時間も3分ほどなので本当にささやかなもの。
マカオと言えば東洋のラスベガス的イメージ。だから勝手にスペクタクルを期待してたんですよ。でも大事なのは体験することなので、見に行って良かったと思う。
花火が終わって人がはけていく頃、ウィンマカオの前で噴水ショーが始まって、そちらも注目を集めてましたね。その場に残って遊ぶ人もまだまだ多そうな感じでした。
ホテルまではバスで…とも思っていたのですがリズボア前のバス停は混み混みだったので、歩いて帰りました。
危険はないのかって?もちろんないからですよ。澳門は夜でも出歩きやすいんです。↓
夜の街角
冒頭でも書いたように、澳門は基本的に夜型の町だ。
例えば1日目は20:00頃香港着、澳門のホテルについたのは23:30頃と相当遅かった。
バスターミナルからホテルに移動する間は車窓から景色を見ていたんですが、23時を回っているというのに町は結構賑やか。普通に親子連れが外を歩いているし、明かりがついている店が多く、しかも割と席が埋まっている。公園で女性が一人トレーニングマシン(澳門…というか中国の公園でよく見かける健康器具)を操っている景色も見かけて色々とびっくり。
なので、こんな時間にホテルに着いたらいつもならさっさと寝て翌日に備えるところ、なんかもったいない気がして散歩に出たんです。
ホテル周辺では普通に飲食店かやっているし、ポークチョップバーガーやドリンクを売る軽食屋やスーパーも営業している。お店の営業時間を見たら昼の12時から翌朝5時(!)、朝2:30まで等々書いてあった。
ちなみにこれは初日の夕食(24:00頃)。香港航空は機内食がパン1個のみでお腹が減ってたので。せめて軽いやつを選びました。
こちらは具を選んで煮こんでもらう、「咖喱魚旦」。野菜が食べたい時に重宝してる軽食です。詳しくは食べ物の記事で書く予定ですが、スーパーで買い物してから再度通りがかった時にもお客さんが来てました。まぁ、人が来るから開けてるんだし驚くこともないだろうけど感覚的には不思議。
スペインみたいに夜が遅い地域は他にもあるのでそういうライフスタイルでも不思議はないけど、さらに澳門市政府はカジノ立国という立場上治安強化に力を入れていて、あちこちに監視カメラも設置されているので治安は良いし安全なのよとマッサージのおばちゃんが言っていた。
なので、よほどひと気のない所、暗い所に行かなければ深夜でも安心して過ごすことができそうです。
澳門に行ったら、早く寝てしまうのはもったいない。夜景を楽しむのも良し、カジノで遊んでも良し、地元民の日常に混ざってみるもよし。現地のリズムに合わせて、夜更かしを楽しみたい。