壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

マカオ旅行記5 ゆったりコロアネ


マカオには3つのエリアがある。それが、

マカオ半島(北部)
②タイパ・コタイ地区(中部)
③コロアネ地区(南部)

である。

コロアネは豊かな自然が残り、昔ながらの漁村やリゾートがある南国情緒に満ちたエリア。歴史を感じる北部、カジノリゾートが林立するテーマパーク的な中部とはまた一風変わった雰囲気を持っている。

しかし南の果てにあり観光の中心地からは遠いので、リピーターや長期滞在者でないとなかなか足を延ばせない所でもある。私も4回目の訪澳でようやく訪れることが叶った。

前回:マカオ旅行記4 レトロ散歩@北部 - 壺中天

コロアネへのアクセス


コロアネまでは少々距離があります。バスで行くと、北部からなら45分、中部からなら30分といったところ。バスの路線でいうと、「コロアネ村(路環市區)」まで行くなら25・26・50番、東側の「ハクサビーチ(黒沙海灘)」まで行くなら26A番

とはいえ北部から行く場合、26番だと西の海沿いを走り中心部を通らないため、ホテル・リズボア前の「亞馬喇前地」に停まる25・26A・50の方が使いやすいです。マカオタワーや媽閣廟と合わせるならアリですが。

26Aは「路環市區」には停まらないけど、バス停の名前が違うだけで近くは通るので「路環居民大會堂」で下りればOK。コロアネ村とハクサエリアを行き来する時もここでバスを乗り降りすることになると思います。

①25・50番バス:コロアネ村行き。亞馬喇前地を経由
②26番バス:コロアネ村行き。媽閣廟など西部を通る
③26Aバス:ハクサビーチ行き。亞馬喇前地を経由。コロアネ村最寄りは「路環居民大會堂」

自分のホテルや旅程に合わせて、使いやすいバスを利用してみてください。

コロアネ探検

コロアネを訪れたのは2日目の12月31日(日)。タイパのグランドビューホテルに泊まっていたので、最寄りの「南新花園」に停まる26番のバスでコロアネに向かいました。

マカオのバスにはなぜかボックス席風の後ろ向き座席がある。バスはただでさえ揺れるので、三半規管が強い人でもなければあまりおススメはしない…。

タイパの市街地をくねくねと通り抜け、バスはコタイ地区へ。澳門が一番きらびやかな所、カジノリゾートが妍を競う非日常の楽園だ。自分ではあまり行かない場所なので、車窓見学が出来て楽しい。お馴染みサンマルコ広場の鐘楼、エッフェル塔と…おや、ビッグ・ベンがある。しばらく来ない間に「ロンドナー」が新しく出来たのか。壮麗な建物をしり目に、コロアネ村まで一路、バスは南へ下っていく。

次第に緑が増え、高層建築も姿を消していく。乗客も一人また一人と下りていき、終点まで乗っていたのは、意外にも私ともう一人だけだった。所要時間は30分ほど。わずかな乗客を降ろし、バスはロータリーを回って引き返していった。

周りはとにかく静かだった。人の姿はほとんどなく、声といえば木の上で鳥が騒いでいるだけ。車はおろか、澳門市民の主要な足であるバイクが通る気配もない。広場の向かいに市場もあるが、日曜だからかひっそりしている。

週末だしもっと人が来ているのかと思ったが、拍子抜けしたような安心したような。とりあえず地図で方角を確認し、ロータリーの中央にある広場を横切って歩いていくと標識を見つけた。

コロアネ村は澳門の南西の果て、海と山に挟まれた小さな村だ。
海際には湾に沿ってプロムナードが伸びており、北の終点は渡し船の埠頭、南の終点は譚公廟。距離は大体500mほど。
内陸側に一本入ると、路地の入り組んだ住宅地があり、その背後の丘に沿ってバナナ畑や墓地がある。

コロアネのランドマークはお馴染みザビエルゆかりのフランシスコ・ザビエル教会。教会周辺にはカフェやレストランが集まり、この辺りがコロアネ村の中心と言えるだろう。

標識が指しているのは海辺の道。しかし反対側の路地の方が面白そう。早速行ってみることにした。

建築オタ、路地裏一人祭りのこと

路地の入口には超市があった。いかにも澳門らしく、バナナや腸詰が豪快につるしてある。店先では客を待っている風もなく、店主一家が座って団欒していた。

その奥は商店街のようだが、シャッターを閉め静まり返っている。日曜でお休みなのか、それとも準備中なのか。後で知ったことだが、道の名前は「客商街」。歴史ある商店街なのかな。

この辺りは、とにかく路地裏散策が楽しい。何があるわけでもなく本当にただの住宅地なんですが、どの家も個性たっぷりでそれを見ているだけで面白い。

香港澳門でお馴染みの、透かし模様のシャッターとポストも少しずつデザインが違う。神棚の形やレイアウトも家ごとに違って、外壁の色との組み合わせも楽しい。
昔ながらの瓦屋根の家がある一方、さりげなくアールヌーヴォー風のオシャレ外装の家もあったりして。

東洋感と西洋感、さらにビビッドな南国風味が家ごとに違った具合にブレンドされて、さらに年季の渋みが加わって唯一無二のデザインになってる感じがもう、すごく楽しい!

もちろん現役の住居なので、ウォッチングもほどほどに、ですけどね。

教会オタ、ザビエルのビジュアルに惑うこと


超市のある客商街から道なりに進んでいくと、フランシスコ・ザビエル教会前の広場に出る。海沿いの道を行っても、裏路地を行っても、ここで合流することになっているのだ。

これがザビエル教会。
北部の聖パウロ教会跡やドミニコ教会のいかにも壮麗なファサードに比べると、小ぢんまりと可愛らしく、親しみやすい雰囲気だ。
教会の左右には西洋風の柱廊が両腕のように伸びており、ベンチもあって休憩にぴったり。日曜日なので教会ではミサの最中。中からはオルガンに乗せて讃美歌が聞こえていた。

これは後で撮ったもの。小ぢんまりとした堂内には奇跡で知られるファティマの聖母像やザビエル像、そしてキリスト降誕を描いた立派なプレゼーピオが置かれていた。

こちらがザビエル像。

日本でザビエルというと「あの顔」だけど西洋の宗教画や彫刻で見ると中々美男子で印象が違うんですよね。トンスラ(頭頂部の剃髪)もないし。
そもそもイエズス会って修道服着ないしトンスラもしない革新的な修道会だし、ザビエルのイメージって色んな意味で西洋と日本ではギャップがあると思う。

ちなみにこの教会はなぜザビエル教会かというと、彼が東方伝道に活躍した人であるのは勿論のこと、ザビエルの聖遺物が一時安置されていたからです。

フランシスコ・ザビエルカトリック教会で「聖人」に認定されているんですが、聖人の認定にも厳しい基準が色々あり、その一つが「奇跡」の有無。つまりこの人に祈ったら病気が治ったとか、この人(のビジョン)が現れて命拾いしたとか、そういうやつですね。

その事例が2個以上認められないと聖人にはなれない(1個だと「福者」になる)。なので、中国伝道の立役者でザビエルより澳門に縁の深いマテオ・リッチなんかはこれがないから聖人でも福者でもない「歴史人物」にとどまっている。

つまり、聖人は奇跡を起こせる。そうなると、聖人の身体もまた奇跡を起こすとして崇拝の対象になり、それが聖遺物。ちょっとグロい話で恐縮ですが、多くの信徒を導いたザビエルの右手は上腕と下腕に分割されて片方がローマのジェズ教会(イエズス会の総本山)、片方が澳門の聖ヨセフ教会にあり、後者が以前はコロアネにあったというわけです。

ちなみに本体はイエズス会のアジア拠点であったインドのゴアに眠っています。とまぁ、聖人になると死後も色々引っ張りだこになるので、五体満足で北京にいるマテオ・リッチはそれはそれで幸運なのかもしれない。

神話オタ、漁民の心を思うのこと


教会前から続く路地を抜けて海岸沿いのプロムナードに出た。対岸に見えるのは中国の横琴島。風が気持ちいい!
干潟では、コサギがじっと魚を狙っていた。渡りの季節になれば、シギやチドリも沢山やってきそうだ。

南にずっと歩いていくと、つきあたりに譚公廟がある。地図で見ると距離がありそうだったが、思ったよりだいぶ近かった。

譚公は広東の地方神。
明代・洪武年間の人である譚徳は幼いころから神通力を持ち、風雨を操り船を救ったという。彼は13歳で昇仙し、その後も民を助け続けた。やがて彼は漁師たちの崇敬を受け、海神として信仰されるようになったそうだ。

神通力を持った少年が神になった…というのは男版の媽祖みたいな感じがする。
コロアネ村にはもちろん媽祖を祀る天后廟もある。海を安んじ、船を守る媽祖と譚公。海と共に生きてきたコロアネの人々の在り方、心の在りようを教えてくれるような寺院だ。

…しかしよく考えたら、媽祖こと林黙ちゃんだって元々は福建の地方神だったのに何故女神界のトップまで行っちゃったんだ?朝廷というプロデューサーがいたからとはいえ、目に留まったきっかけはなんなんだ?そう思うと、同じような伝承を持つのに全く別の道を歩んだセレブ媽祖と庶民派譚公の対比が面白く思えてきた。媽祖信仰の歴史については改めて調べてみよう。

さて。突き当たりまで来てしまったので、ここで一度引き返す。この頃になると町には人がずいぶん増え、お店も開いて賑やかになってきた。ロータリーの方面に戻り、来た時には開いていなかった名店・ロードストウズ・ベーカリーの様子を見たがやはり長蛇の列…。いったんスルーして北の方を見に行くことにした。

中華オタ、乾物が気になること


バス停から北方面に向かうと「船人街」

この辺りにはオーシャンビューの食堂や海産物を売る店が並び、突き当りにはコロアネと中国本土を結ぶ小さな埠頭がある。中国とは言っても、もっぱらコロアネ島び向かいにある横琴島との往来に使うもので、施設はささやか。でもちゃんと税関もある。

地図によれば北の方に行くと造船所もあり、地名の通り特に漁村らしさの色濃い場所だ。

海産物のお店は、主に乾物を扱っている。

仏跳墻に代表されるように、中華料理では乾物をたくさん使う。以前80Cさんの記事で読んだけども、乾物を扱うのは熟練の料理人にしか許されず、戻すのにも繊細な技術が必要であるらしい。乾物はなかなか地位が高いのだ。江戸時代に輸出した「俵物」も、そういう需要をついたものだったっけか。

もちろん日常にも欠かせない食材のようで、香港空港で買ったレシピ本にも「干しイカ」「干しエビ」など乾物がよく出てくる。それを踏まえて、次回行った時にはちょっと覗いてみたい。


こんな地名も。「圍」は囲のことなので海賊広場?色々想像を掻き立てられちゃいますね。

ちなみにロードストウズ・ベーカリーのエッグタルトはちゃんと買えました。うまく人の少ないタイミングで並ぶことが出来て。1つ11パタカ、220円くらい。お店はご当地パンも多い澳門にあって、クロワッサンやドーナツ、カヌレなどが並ぶ純洋風のベーカリーでした。

ここのは甘さ控えめで、パイ生地の塩気が心持ち強めな感じ。ちなみにヴェネツィアンに支店があるのでコロアネまで行けなくても食べられますよ。食べ物系はまた別記事で詳しく書きます。

コロアネの鳥たち

路地裏ウォッチングもいいけど、同じくらい楽しかったのがバードウォッチング。コロアネは自然が多いので都市部よりも生息してる鳥の種類が多く、鳥との距離が近いのです。


この子はシキチョウ。市街地の公園でもたまに見かけるが出会える確率は高くない。地上や枝の上をぴょこぴょこ跳ねていることが多く、よく見ると足がたくましい。
なので低い所でよく見られるのだけど、コロアネではあちこちで会うことが出来た。

お尻(尾羽)を上げる習性があるんですがこれが可愛くて。あざとい奴です。

植え込みの水たまりで水浴びしていた子。ボッサボサ。澳門半島のシキチョウはこんな近くまでやってこないので、コロアネの長閑さのなせる業なのか。


マカオ旅行中に出会った鳥で一番の美形、カンムリオウチュウ
バス停近くの雑木林で鳥を探していた時、鳴きもせず飛びもせず、ひっそり止まっていたのを偶然見つけた。メタリックブルーの羽と繊細な飾り羽がとても美しい鳥。

海岸沿いを歩いていたら、鮮やかな青い羽根の鳥が飛び立つのを見かけて、光の具合でハトを見間違えたのか?と思っていたけどたぶんこの鳥だったんだろう。日の光の下でまた見てみたい。


ここにもいるコウラウン。またお前か的ポジションだけど、よくつがいで行動しててかわいい。

山の方に行くともっと色々いるみたいですね!ただ、鳥目当てに山歩きするってなると街並み散策とは時間的にも装備的にも両立しないので、そのための旅行スケジュールを立てないとですね。今回も欲張ったらあちこち反動が来て結構きつかった。

路環十景

あとはひたすら歩きまわっていたのですが、コロアネは自分の足で歩いて発見するのが楽しい所だと思うので、一々何があってここがこうで、と説明するのも野暮。

その代わりに、コロアネ散歩でこれはいい!と思ったものや風景を、あくまで私の感性で10個選んでみました。あんまり万人受けするセンスは持ってないので恐縮だけど、ツボは大体レトロ感と華洋折衷かな…

ぴんと来たら是非コロアネへ。

所感

観光しに行く所ではないなぁと思った。世界遺産があるわけでもなく、遊び場があるわけでもない。
教会も寺院もあるけど、ごく普通。誰かに見せるためではなく、日常の一部としてただそこに佇んでいる。

「これを見れば・すればOK!」と言えるようなものはないので、美味しいもの食べて、街並みを散策して、潮風に吹かれて、ただのんびり時間を過ごしに行く所、という感じ。
とはいえ昼頃からは人出が多くなるので、のんびりした風情を求めるなら朝早めに行くのがおすすめです。今回は年末年始で日曜だったので、普段はそうでもないのかな。

異国を楽しみたいが観光地の人込みは苦手という人、好奇心が強くて楽しみを見つけるのが上手い人、そこにしかないものが見たい人…特にそういうタイプの人におすすめな場所だと思う。まとまった時間滞在して、移り変わる時や天気と合わせて色んな場面に出会い、切り取ってみたい場所だと感じた。

実際、まだまだ見所もたくさんある。ハクサビーチ方面は未踏だし、コロアネ村から北に行けば媽祖文化村、山頂にある媽祖文化村の周りは公園で野鳥もたくさんいる!次もぜひ足を延ばしたい。

というかですね、1月31日まで限定でマカオ航空が特別セールやってて航空券が激安なんです。その金額にどれほど税とか燃油代とか上乗せされるのか分からないけど、香港経由する必要もないし何よりまた行く口実が出来てしまう…。だから、次は意外とすぐかもしれない。