ハロウィンに合わせて描いた作品です。元ネタはマテオ・リッチの手記、北京で二人が「悪魔が出没する」という噂の訳あり物件を買った話。残念ながら元ネタの方では悪魔対応等はなくすんなり家を買ってしまうのですが、アレンジでひと手間加えてみました。
なお、全29頁とかいうとんでもない量になったので、細切れでupしていきます。全三日あるうちの、今回は一日目分。
神父×悪魔ということで、今回はお話的にもビジュアル的にもキリスト教色強めです。明清天主教史・キリスト教美術(絵画建築)・イタリア語などこれまで血肉にしてきたものを思う存分詰め込んでいますが、その分誰もついてこれない感じになっているかもしれない…。
【漫画過去作】
(1)九万里の夢 (2)歳寒友の遺文 (3)絶壁マテリアメディカ
⇒つづく。
【解説】(気になる方だけどうぞ)
《P.1》
・Perfetto =イタリア語でパーフェクト。珀爾菲圖は単なる当て字です。開幕徐氏がイタリア語でドヤってるとかどうなの…
・背後の祭壇は利瑪竇・徐光啓の有名なツーショット絵をモデルにしてます。聖母子像とか。
《P.2》
・背後の棚に置いてある時計は「自鳴鐘」と呼ばれる機械時計。イエズス会士は西洋の珍品を手土産に各国の君主や高官の支持を得ようとしたが、なかでも効果を発揮したのがこの自鳴鐘だった。たとえば万暦帝はこの時計に魅了され、おかげでリッチは彼に目通りすることが出来たという。
《P.3》
・麗娘、何故唐突に!?とお思いかもしれませんが、彼女の元ネタ『牡丹亭還魂記』(作者は湯顕祖)では彼女は幽霊として登場し、最後には生き返って主人公の柳夢梅と結ばれる。だから応天府探検の結末も割と想定内だったりする…。湯くん、戯曲の中で彼女を生き返らせてあげたのかな。
・中国人の幽霊・怪異観…徐光啓は科学者なのでそれを受けての発言ですが、中国人の「非現実的なもの」に対する考え方は、もともとこんな感じです。「恐れる・怪しむのは未知のものだから」「妖怪は人によって生じる」等々。うーん、やっぱり漢民族って現実的・合理的。『聊斎志異』とかもあるし、怪談全否定というわけではないのかもしれないけど。知識人的な考え方なのかな??
《P.4》
・負担…リッチは家を買うにあたって徐光啓たちから多額のお金を借りた。ちなみに総額は600~700スクーディ(教皇領通貨)、日本円だと1200~1400万円。40部屋ある家が1200万は安いかも!ちなみに、ヴァリニャーノ先輩からの送金でちゃんと返済できたようです。
・「なんでも疑ってかかる性格」…『徐光啓評伝』によれば、徐光啓は自らをそう評していたそうな。
(参考:陳衛平・李春勇『徐光啓評伝』南京大学出版社)
《P.5》
・一番わけわからんページですね、ここだけ見せられて「中国の町づくりゲームの二次創作漫画だよ!」と言われてもさっぱりですね。
・不可視の世界が存在するという認識と科学の発展は、実は表裏一体。古代ギリシアやキリスト教世界で科学が発展したのは不可視の「法則」を見つめる視座があったから。なので、中国で科学が発展しなかったのは徹底的な現世主義だったからではないかと私は思っている。マテオ・リッチも「彼らは表面だけを見て原因を考えようとしない」と手記の中で突っ込んでいるし。
(参考:茂木健一郎・加藤徹『東洋脳×西洋脳』中公新書ラクレ)
・最後の絵はヴァチカンにある「アテネの学堂」と、同じ場所にラファエロが描いた「聖体の論議」の一部模写。人数ごっそり削って楽をしました。観念的なプラトンと理知的なアリストテレス、ちょっとリッチ・徐氏と重なりません?
《P.6》
・どちらも『論語』の一節。「怪力乱神を語らず」、「生も分からないのに、どうして死が分かるのか」。儒教は徹底的な現世主義です。徐光啓は死や魂に関心を持っていて、儒教がその答えをくれないことを不満に思っていたとか。その点が、彼がキリスト教に改宗する一因となったそうです。(これも『徐光啓評伝』)