壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

「水都百景録」について語る

最近中国の町づくりゲーム「水都百景録」にハマっております。

日本リリースは今年の6月、中国本土では「江南百景図」の名で2年前から配信中。ストーリーは明の万暦年間(1500年代)、燃えてしまった絵巻の中の江南を、画家の文徴明が復興させていく……というもの。日本史に置き換えると、長谷川等伯狩野永徳が京を絵に描いて復興させるゲーム、的な?

中国版の名称からもわかるように、ゲームの舞台は江南地方黄色、重厚でド派手……のような、我々が思い描きがちな「中国らしさ」は華北的なもの。江南の色彩は水墨画のような雅で幽玄な世界。その水墨画のような世界観と、箱庭づくりが楽しめるゲームとなっている。

(1)魅力その1 無限のゲーム性と本格水墨画風グラフィック

基本的には住人を増やして、資材を作って、施設を建ててとオーソドックスな都市経営SLGのノリ。↓だんだん地域を開放して、建物を建てる・復興させていく。作中に登場する都市は実在の町で、日本では現在南京(応天府)蘇州杭州が開放されている。もちろん、水の都・蘇州なら装飾として水路が引ける、杭州なら大運河が近いので大規模な交易が出来る……など地域の特色をしっかり生かした造り。蘇州の庭園や杭州の西湖など、実在の名所を復興させていくのも楽しい。水墨画風のグラフィックはかなり本格的で、ついついじっと見てしまう。既成の建築を配置するだけでなく、装飾パーツと組み合わせて一から建物を作るのもまた楽し(上は朱元璋の家)。コンセプトを決めて遊び始めると本当に終わらない。

というわけで、基本は放置ゲーながらカスタマイズ性の高い街づくりが可能・グラフィックを眺めて水墨画の世界に浸る等、無限の楽しみ方が出来る恐ろしいゲームなのです。

(2)魅力その2 視野が広がるキャラクター人選

時代設定も面白い。舞台は明代で、絵画を題材としている分、登場人物も文化人ばっかり。過去の人物も登場するが、日本人にお馴染みの始皇帝とか項羽と劉邦とか諸葛孔明とか楊貴妃とか、その辺はほとんど出てこない。誰これ?から世界が広がってなかなか面白いのである。真ん中の黄色い服を着ているのが主人公の文徴明(明代の画家)、その他沈周唐寅(唐伯虎)董其昌など絵画史上の有名人たち。絵巻の中が舞台ということで基本的には画家系のキャラクターが主人公格で、物語は彼らを中心に展開する。明代のキャラクター。黄色い服を着ているのはおなじみ洪武帝朱元璋。学校世界史で習う有名どころだと鄭和徐光啓、李時珍なんかもいる。卒論で書いて個人的に思い入れ深いマテオ・リッチ(中国のザビエル的存在)がいるのも嬉しい。宋代のキャラクター。名裁判官として有名な包拯、東坡肉でお馴染みの文人蘇軾、『水滸伝』にも登場する徽宗の愛人・李師師など(残念ながら、隣のシルエットは徽宗ではない)。中央にいるのは白蛇の精と人間の恋物語白蛇伝」の主役三人。ほかにも『牡丹亭還魂記』の杜麗娘、梁山伯と祝英台など、戯曲・小説からの登場人物が結構いるのがこのゲームの特徴。

この通り学校で習うような知名度の高い人物は少なく、文化史で名前だけさらっと触れるような人がメインキャラを張っているようなジャンルなので、マニアック過ぎて我が国で受けるのかとちょっと心配になるほど。(個人的には、視野が広がっていいと思うけど)でもやっぱ、日本人的にはここだ。武則天とか李白杜甫とか玄奘とか王昭君とか、「唐までの人物」に出会うと実家のような安心感。

萌えに走らずかといってバタ臭くもないニュートラルな画風と老若男女入り乱れる世界観もまたお気に入り。

(3)魅力その3 溢れんばかりのテキスト量

ところで、このゲームで一番中国らしいなと感じるのがテキスト量のものすごさ。

街の住人やら施設やらアイテムにいちいち説明やストーリーがついていて、ゲームの本筋と関わらないのにそこまでやるか?というか全部読んでる人いんのかこれ、レベル。さすがは文の国……。

街には作業要員として上の顔ありキャラクターのほか汎用住民が住んでいるんだけど、彼らには自動生成のプロフィールがそれぞれ設定されており、同居人たちと喧嘩したり親しくなったり、果ては結婚したり死亡したり、パターンが細かくて見ていて飽きない。この人間模様を眺めてニヤニヤしているだけで、結構時間が吸い取られるんだな……。例えば結婚イベントが起こると家に装飾がついたり、本当に芸が細かい。

さらに街に置けるオブジェクトにもいちいち説明文がついていて、ショートストーリーを読むことが出来る。銘文のような漢文調のものから、文学的な話、くすっと笑える話、しみじみと胸にしみる話、皮肉のきいた小咄っぽい話などノリもやたら多彩。

とりあえず感じるのは、プレイヤーを楽しませよう!というより、とにかく書きたいんだ俺は!!みたいなパッションである。嫌いではないけど、プレイ中の端末の異様な発熱の原因がこれだったら参る。

(4)利点難点

いいじゃんと思っているのは、課金が確実に還元されること。

課金アイテム「女媧石」はおもに時短や建築の強化、建築との交換に使うので、「〇円つぎ込んで成果ゼロ」ということには基本ならない。街づくりに重きを置くなら良心的だと思う。

……ただ、人材収集(キャラ集め)をしようと思うと中々キツイ。課金アイテムには人物ガチャに使う「巻物」もあるのだが、最高レアの排出確率3%、これはまだいいとして天井なし・最高レアアイテムにすり替わる可能性ありのキツイ仕様。10連1000円くらいなので、日本の標準的なソシャゲよりは安いが確約がないのは辛い。たまに50連で最高レア1人確定キャンペーンもやっているので、そういう時に買うのがベストだと思う。

優秀な低レアキャラも多いし、バトルもないので最高レアが必須というほどでもないんだけど……やっぱ李白とか玄奘とか、欲しいじゃん……!!

難点は、一定期間を過ぎるとお金稼ぎ作業になってしまうこと。開発に必要な資金がどんどんインフレしていくので、ログインしてポチポチ商業施設に人を配置するだけになってしまう……。他にやってるゲームも育成終わってデイリーこなすだけになって来てるので、それはそういうもんかもしれないけど。

あとは清代の人物が出られないことかな。賈宝玉と林黛玉とか来たら回すぞ私は。