マカオの土地神をひたすら記録するシリーズその4。
※ちゃんとしたフィールドワークではなく、ただの感想と記録なのでご了承ください。
第4回はマカオ半島を離れ、南にあるタイパ島・コロアネ島の土地神を取り上げる。
マカオ南部といえばカジノリゾートホテルが林立するコタイ地区が注目されているが、このエリアは北のタイパ島とコロアネ島をつなげて作られた埋め立て地だ。
タイパ・コロアネにはもともと漁村があり、今では観光地化もされているが、メインストリートを離れ裏道に入ると、昔ながらのゆったりとした空気が流れている。
カラフルな家並みの間を縫って路地裏探検をしていると、そこには赤い土地神の姿もある。ただし、このあたりの土地神は、マカオ半島のそれとはまた別の雰囲気がある。
一言でいうと「文」の匂いがしないのだ。
マカオ半島の土地廟は対聯やめでたい文字・文句を書いた貼り紙など、文字の呪術に囲まれているといってもいい。
一方のタイパでは昔ながらの社稷神壇がそのまま置いてあったり、コロアネでは祠があっても神像と香炉が置いてある程度のシンプルなもので、地方政府の関与もあった北部の廟よりも「素朴な民間信仰」という雰囲気があるのだ。
タイパ村
タイパ村の周辺ではいくつか土地神の祠を見かけた。見たところ、マカオ半島の祠のように屋根付きのお堂がある場所は少なく、神壇がそのまま祀られていることが多い。以前書いた理由で社稷の神壇は本来屋根を付けないものなので、ここでは本来の形が守られていると言える。
ではその理由は?と考えてみたがよくわからない。そもそも、北部の神壇に屋根が付けられた意図も一概にこうだとは言えないし。
一因としては明⇒清の王朝交代が挙げられるが、その関係でいうならタイパの神壇に屋根がないのも「政治の中心から遠く、あまりその影響を受けていないから」と考えられるかもしれない。
鑑賞という観点から見ると、お堂がないので半島部と比べて対聯を読む楽しみなどはあまりないが、神壇の上を広々と使っているので同居人やオブジェが多い傾向にあり、また別の面白さがある。
30.北帝廟隣の土地廟
場所 | 北帝廟となり |
文字 | 西庚社稷護民(以下不明) |
対聯 | なし |
形式 | 神壇 |
その他 |
タイパ村西にある北帝廟(北帝は真武帝君ともいう破邪の神様)の近くにある。祭壇自体は彩色もあまりなく飾り気のないデザインだが、左側が炉になっている非対称の作りが面白い。
神位とは別に、土地神像と石のご神体も祀られている。正面からは気付かなかったが、花瓶の裏に福禄寿三星もいる。
「護民」というフレーズはここではじめて見た。社稷は単なる土地の神だから、自然崇拝から人格神としての土地神への過渡期を感じる。
31.天后廟隣の土地廟
場所 | 天后廟となり |
文字 | 禄秀社 本坊社稷福(以下不明) |
対聯 | なし |
形式 | 神壇 |
その他 | 生首が… |
海の守り神・媽祖を守る天后廟の隣にあり、白をベースに赤と緑の差し色が美しい神壇。化粧をしているようで、女神(天后)の寺院によく似あっていると思う。
土地神の像はなく、赤く塗られた石がその代わりだろうか?他にも石のご神体が置かれている。福禄寿の三星や関羽がいるのは土地神あるある。線香立てが独立しておらず一体化しているのが珍しい。
ここは何故か麒麟?の像も沢山ある……
まって、
ナニコレ……怖いんだけど…
32.木鐸街の土地廟
場所 | 木鐸街 |
文字 | 永秀社 |
対聯 | なし |
形式 | 神壇 |
その他 | - |
グルメでお馴染みの観光ストリート・官也街の裏道にある路地裏迷路は、タイパでお気に入りの場所の一つだ。ミントグリーンやクリーム色、ピンクなど可愛らしいコロニアルカラーの洋風住宅や、鉢植えをつるした街灯が並ぶ路地は遊園地みたいでワクワクする。
そんな楽しい路地裏の一角にあるのがこの土地神。
個人的にタイパの土地神では一番だと思ってる。カラーリングも装飾もいい。クリームイエロー×水色のパステルカラーをベースに、大きな「寿」のレリーフがインパクトを放っている。
神壇自体のカラーリングも凝っているけど、何より色んな神様、色んなオブジェが置いてあって見ていてとても楽しい。お約束の観音様大量発生に関羽ブラザーズ、陶器の獅子と…何か龍の仲間らしき生き物もいる。
一応本尊の土地神がいるんだけど、オプションが多すぎて完全に埋もれてしまっているのもご愛敬。ただ気になるのは、神壇にしては神位がないこと。石板が壊れてしまったのだろうか。
コロアネ
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マカオ最南端にあるコロアネは、自然が豊かでビーチもある南国リゾート風のエリア。ここにも土地神の祠がいくつかある。
公共の祠はどこもシンプルだからあまり知的好奇心はうずかないんだけど、むしろ街並みがかわいい分、住宅に祀られる私設の土地神を見るのが面白い。
コロアネ村の範囲は北の路環碼頭(埠頭)から南の譚公廟までの約500m。まずは北側のエリアから見ていきたい。
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34.田畔街の土地廟
場所 | 田畔街 |
文字 | なし |
対聯 | なし |
形式 | 廟 |
その他 | 荒れている? |
コロアネ村のバス停の近くにある。行きのバスの中から見えて、降車後一目散に逆走して見に行った。
単に土地神レーダーが捉えたからというだけでなく、一瞬横を通り過ぎるだけでも忘れられないインパクトを残していったからだ。
本体である土地神の像はところどころ塗装が剥げていて傷みが激しい。大型で、他では見たことのない姿をしている。右手には穴があるので、昔は杖を持っていたのだと思われる。
見た所、線香も刺さっていないし、用具や祠の汚れも目立つし、ネグレクト気味だろうか…。亀がいたり、お供えのカップがコーヒーカップだったり、タイルを突き破って木がすくすく育っていたり、色々と唯一無二の土地神。
ちなみにストリートビューを見ていたら、2008年の時点では祠の中は空っぽで香炉があるだけだった。この像が置かれたのはいつなんだろうか?
台の下には、古びくなった神位が置かれていた。こういうのって、祀っているのかそれとも神社の納所みたいな役割があるのか、気になっている所。ここのは荒んで見えるけど…。
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コロアネ村の北には中国の横琴島とコロアネを結ぶ船が出ている路環碼頭がある。バス停からエッグタルトで有名なロードストウズ・ベーカリーの横を通り過ぎると、広場から船人街が伸びている。碼頭はその突き当りだ。船人街沿いには海に面した飲食店や乾物屋が多いが、土地神の祠もよく見かける。
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【番外編】空白の祠
場所 | 船人街 |
文字 | なし |
対聯 | なし |
その他 | 何を祀っているの? |
ブログでもたびたび載せてきたこの祠、すごくかわいくて周りの建物との色のバランスも最高で絵にはなるんだけど、個人的には謎の祠。
だって、何を祀ってるかわかんないし…。
金花、リボン、渦巻き線香、福の張り紙、香炉、お供えときて本尊だけがいない。個人的には、本尊や神位という宗教的要素を抜いて「絵になるビジュアルだけ抜き出して創ったオブジェ」という風にも見える。なので、土地神カウントはしていない。
ちなみに、この祠の隣にある家は、この祠と同じように吉祥の飾りつけでいっぱいの謎の家なので、いずれにせよ独自の思想の持ち主が作ったんだろう。
絵にはなるけど、信仰心とか生活感とか祠にあるべき念を感じない、まぁある意味「今風」の祠だと思う。
35.三聖宮の土地廟
場所 | 船人街、三聖宮となり |
文字 | なし |
対聯 | なし |
形式 | 廟 |
その他 |
船人街にある寺院「三聖宮」の隣に祀られている土地神。この像は沙梨頭大聖園の土地神と同じ型だな。貫禄がある。
後はいつも通りのシンプルさなので、特に語ることはない。ちなみに昔の写真を見たら、観音古廟前の土地廟と同じかまぼこ型のお社だったので、いまの建物は割と新しいと思われる。
36.船人街の土地廟
場所 | 船人街 |
文字 | なし |
対聯 | なし |
形式 | 廟 |
その他 | ガジュマルの木 |
船人街の歩道、ガジュマルの木の根元に鎮座する目立つ土地廟。土地公・婆の像があるが、ここも2008年のストリートビューを見たら赤い石が置いてあるだけだったので、像が置かれたのは比較的最近のことだと思われる。ガジュマルの木にも線香が挿してあり、土地神信仰というより原始的なアニミズムを感じる。
37.路環碼頭の土地廟
場所 | 路環碼頭 |
文字 | なし |
対聯 | なし |
形式 | 廟 |
その他 | 海の男風 |
中国本土とコロアネをつなぐ路環碼頭の近くにある土地廟で、乾物屋の隣にある。ガジュマルの土地廟とは100mと離れていないので高密度だ。
ガジュマルの土地廟と異なり、海側を向いて建てられているのが特徴。航海の無事も託されているのだろうか。心なしか、藍色の衣にこんがり焼けた肌と、海っぽい見た目をしていると思う。
それと、地味に珍しいのが埋め込み型の香炉。これは初めて見たけど、便利なようでいて灰を捨てるのが大変そうだ。
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碼頭の周辺には警察関連施設、造船所などが多いが、南に行くと住宅地やお店、寺院などが増えて生活感が出てくる。南部の見どころは何といっても街並みだ。華洋折衷スタイル・ビビッドな南国カラーの家を見て歩くのが楽しい。
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38.観音古廟の土地廟
場所 | 大廟巷(観音古廟前) |
文字 | 土地公■ |
対聯 | なし |
形式 | 神壇 |
その他 | 泰山石敢當 |
観音古廟の入り口前にある土地廟。かまぼこ型のお堂に荒削りの土地神像、泰山石敢當などが安置されている。お花やお酒などお供え物は豊富だけど、張り紙や金花などもなく装飾はシンプルだ。
39.日光圍の土地廟
場所 | 日光圍 |
文字 | 永安社土地(以下不明) |
対聯 | 永庇居民康樂 安裕百物咸亨 |
形式 | 神壇 |
その他 | 文の匂いがする! |
南部では珍しい「文字のある土地神」。お客様が大集合していることといい、やっぱり土地神はこうでなくては!
お約束の観音様集団(ミニサイズのがかわいい)に、福禄寿星、関羽に…黄色い服のこれは誰だ?初めて見た。⇒他の写真を見ていたら似た人物が写っていた。「大仙」とあったので多分黄大仙だろう。
心持ちそっけないコロアネの土地神の中でもここは一推し。
街角の土地神たち
土地神文化圏では公共の祠のほかに戸口に土地神を祀ることもあり、特に新しい住宅地では、公共の祠を建てず個人的に土地神を祀っているだけの場合もある。
可愛い家が多いコロアネには特に絵になる土地神が多いので、せっかくだからギャラリーとして載せておきたい。個人宅なので場所は書いていない。
改めて見ると、北部のように福の字や金花などのオプションの装飾はつけずシンプルな点は土地廟も家庭用祭壇も共通していると思った。金花などの飾りは本来潮州、汕頭など広東の習慣であるそうだし、中国本土に近い遠いの差ということなんだろうか?
タイパ・コロアネの土地神をまとめてみて、地域性が見えてきてなかなか面白かった。なぜそうなのか、という点は文献を当たって調べてみたい。
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マカオの土地神で自分が持っているストックは以上になります。次回、舞台は東南アジアへ。
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