壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

【2018】黄山旅行記2 憧れの仙境


なんと鶏の鳴く声で目が覚める。特に農家があるようにも見えなかったけど、ホテルで飼育してる(食用)のか?

今日は待望の黄山観光。色々あったが、無事にスケジュールをこなせそうで何よりだ。

時刻は6:00頃でまだ早い。ホテルで朝食を食べて町に繰り出した。散歩というより、ATMでお金をおろすためだった。ここで収入が得られなかったらかなり予定が狂うので、緊張しながら昨日見つけた銀行を目指す。

屯渓にて

屯渓ののどかな朝

ATMは屯渓老街の近くにあった。昨日は川沿いからアクセスしたが、今朝は老街を抜けて行くことにした。

屯渓老街は安徽の名産を売るお店やレストランが並ぶ観光地なのだが、建物に囲まれていて見た目には意外と目立たない。

今回使った西側の入り口はホテルの建物と一体化していて、渡り廊下が門を兼ねていた(↑は老街の中から見たところ)。

入り口は小さいが、潜り抜けたら異空間が広がっている壺中の天的なギャップがいいな。中国庭園でも似たような空間演出をするし、意図的な構造なんだろうか。

屯渓老街は石畳の道に古建築が立ち並ぶ風情のある通り。観光ストリートだが建物自体は作り物ではなく年季が入っており、「徽派建築」と呼ばれる安徽特有の建築スタイルを堪能できる。

8:00頃なので、お店はまだ閉まっているか開店準備中。狭い通りは日が高くなれば観光客でいっぱいになるだろうから、街並みをゆっくりじっくり楽しめるのも今だけだ。

階段状のうだつ(馬頭墻)を多用する所とか、確かに江蘇や浙江の古鎮とはちょっと違う気がする。なんてことはない家に見えても、格子窓とか1つ1つのパーツのクオリティが高くて豪商の郷らしい。そこに無造作に洗濯物とかがぶら下がってるのがまたいいね。

メインストリートから川(新安江)方面には路地が伸びており、「緊急脱出路」と書かれている。どういう緊急なんだ?

路地を見ると入らずにはいられない習性なので、もちろん入る。おばあさんが洗濯していたり、干し肉がつるしてあったり風情たっぷり。いい感じの生活感!

右の家の透かし彫りとか、猥雑な路地でもじっくり見てみると美的センスの高さを感じる。要は古い家なんだろう。昔は商人一族とかが住んでいたんだろうか。「徴収改造地块」という張り紙もあったので再開発予定なのだろうか。

ところで、緊急脱出路の矢印を追ってきたら「外は危険」って書いてあるんだけど…

路地を抜けて川に出た。わー、視界が広くて気持ちいいなー!

これが徽州の商売を支えた新安江で、下流杭州と繋がっている。かつては商品を積んだ船が沢山行き来したんだろうけど、今は船影一つなく、川面はまるで鏡のように静か。

赤レンガの橋のたもとで、川べりに降りて洗濯をしている女性たちや釣りをしているおじさんたちが見える。網を仕掛けていた人はなかなかの大漁だったので、魚が結構いるようだ。商人を育てた新安江は、地元住民にとっても恵みのようだ。

昨夜見つけたATMでキャッシングも無事済ませた。のどかな日常風景をもっと見ていたかったけど、今日は次があるので散歩はほどほどにし、チェックアウトを済ませることに。

行李寄存

さて、黄山に行く場合、スーツケースは麓で預けることになっている。麓に宿泊しているなら何も問題ないが、問題は山上に宿を取っている場合。

その場合、スーツケースを持っていくわけにはいかないので、預けておく必要がある()。なので、屯渓でも老街のお店をはじめ、黄山行きの客のため荷物預かりサービスをしているところが多い(←「行李寄存」とかいてあるのがそれ)。

※)荷物検査で引っかかる=ルール上「持っていけない」のか、不便という主観レベルの「持っていけない」かは覚えていない。

今回は屯渓の宿で預かってもらう予定だった。場所柄慣れているだろうし、ダメってことはないだろう。フロントで事情を説明したら無事預かってもらえた。部屋番を控え、受け取る際には名前と番号を言えばいいとのことだった。

Road to 黄山

いよいよ黄山へ出発。生活に必要な品物とカメラ用品をリュックに詰めて出かける。屯渓は黄山の窓口となる街だけど、ゴールとなる「黄山風景区」まではいくつかの手順を踏まねばならない。

①屯渓のバスターミナル

黄山湯口(ロープウェイ乗り場へのバスが出る)

③チケット売り場・ロープウェイ乗り場

黄山風景区

屯渓~湯口

屯渓から黄山行きのバスターミナルへ行くにはいろんな手段があり、人力タクシーもいた(呼び込みによると5元)。

ちょうどホテル近くをバスターミナルに行く2・8番のバスが通るのでこれを待った。ほどなく2番のバスが来て、運転手さんが「どこまで?」と聞いてきた。行き先を告げ1元支払うと、バスが動き出す。乗客は私一人。川沿いを北にさかのぼって、5分くらいで到着した。

ターミナル入り口横にはちゃんと銀行もあって、なんだ、ここでもお金が下ろせたのか。内部に入るとおばちゃんが声高に黄山湯口~!」と呼び掛けている。中国名物おばちゃん車掌だ。

おばちゃんについていくと、チケット売り場を経ずそのままバスに通される。お客はほとんど満員ですぐに発車した。バス代は出発後、おばちゃんが乗客から集めて回っていた。1人20元。

中国では公共交通機関の運行に画一的な秩序があるわけではないので、経験値低いうちは怪しげなぼったくりバスに連れていかれるのでは…とビビるけど、そういう形式なんだなってもう慣れた。周りを見て、普通の中国人が普通に利用してれば危険はないと思う。

合肥や南京などわくわくする看板を見ながら黄山へ。ガイドブックには1時間半くらいと書いてあったけど、湯口出口には30分ほどでついてしまった。

しかしそこから各人のホテルに立ち寄るなどして、最終的に停車したのは1時間後。そして...中国名物、良く分からない路上で下ろされる。いや、黄山へのバス乗り場まで行くんじゃないんかい!

湯口~雲谷ロープウェイ乗り場

現在地もさっぱりわからないので、歩いてタクシーを探すとすぐに出会えた。雲谷ロープウェイまでと言うと、「そこには行けない。バス乗り場まで20元でいい?」と言われた。風景区は所定のバスしか入れず個人でアクセスすることはできないようだ。

バス乗り場まではすぐついて、20元は正直高かったかもしれない。でも右も左もわからなかったので結果論だな。タクシーの中からは、黄山が正面にもう見えていた!

乗り換え所でチケットを買い、乗り場でバスが来るまで待つ。

なんか変なキャラがいる。

バスは「黄山」の額を掲げた牌楼の横を通り過ぎ、くねくねした山道を登り始める。いかん、これは酔うやつだ。この辺りの景観は日本の山道に似ている。竹が多いのが印象的だった。

20分くらいで雲谷寺のバス停に到着。そこからはロープウェイ乗り場まで少し歩く。山に沿って下っていき、地質博物館の裏手に回るとロープウェイ乗り場だ。(青い看板がある所)

ちなみに乗り場の向かいには登山口もあり、徒歩での登頂を目指す健脚さんや山上に物資を運ぶ挑夫さん(後述)はここから山に登っていく。

ここで買うのはロープウェイのチケットだけではなく、黄山風景区」の入場料が必要になる。費用は合わせて310元。混雑を覚悟していたけど人は全然おらず、あっさりロープウェイに乗れた。

山上へ!

ロープウェイのゴンドラは4~6人乗りの小さなもの。今回は私ともう1人の女性だけ。

ロープウェイは久々に乗ったけど、高さがあるし距離も長いのでドキドキ。でも眺めは素晴らしい。

尾根を2つか3つ超えて登っていくんだけど、先に進むにつれて岩肌むき出しの「黄山」らしい眺めになっきて期待が高まる。ところどころにかわいらしい白木蓮の花も咲いていた。揺れはそこまでなく、恐怖はあまり感じなかった。

15分ほどで山の上に到着した。地上に比べるとやはり涼しめ。フリースの上着を羽織り、さっそく歩き出す。

「山に登る」ということでトレッキングシューズでも買った方がいいのかと思っていたけど、「山歩き」を期待しているとちょっと興ざめするくらいに遊歩道がしっかりと舗装されていて、普通のスニーカーでも快適に歩けるくらいだった。

バッキバキな山肌にへばりつく松、まさに漫画とかでお馴染みの「中国の山」そのもの。感動したなぁ。

遠景から見た遊歩道。誰だ興覚めなんて言った奴は、こんな山の上にこんなしっかりした道を作ってくれてありがたいことです。さすが蜀の桟道を生んだお国。

歩いていると、突然「猴!」と声が聞こえた。声のした方を見ると木の上にサルの姿が!

身軽に岩肌や木を伝い、枝から枝へと渡り歩いている。展望台では間近で見ることもできた。中には荷物を取られそうになっていた人もいたので油断大敵だ。あとで調べたらチベットマカクというサルらしく、黄山は保護と生態研究の場になっているんだそう。みんなの入山料がこんなことに使われているよ!ってやつ?

道なりに歩いていくと、色々な松がある。黄山は松の名木(奇木?)が多く、あちこちに「●●松」の看板が立っている。探海松、接引松、龍爪松、連理松、黒虎松などなど、ホテルに行くまでにもこれだけのネームド松があった。

黄山にて

黄山のホテル事情

今日は黄山の上にある「北海賓館」に宿泊することになっていた。まずは荷物を減らしたいので、ホテルに向かう。

黄山の上にはいくつかのホテルがある。今回泊まる北海賓館はロープウェイ乗り場から一番近く、2つの展望台に近い利点がある。宿泊費は総じて高額で、1部屋1泊2万円くらいする。

理由は物資の輸送コストが高いから。宿泊費に限らず、黄山の上では売店でもレストランでも、総じて物価が高くなる

物資の運搬は、挑夫と呼ばれる専門の運び屋さんたちが人力でやってくださっているのだ。だから今回はアルファ米カップヌードルなどのインスタント食品も持参してきていた。

山上に宿を取るかどうかは目的によると思う。今回は朝日が見たかったので山上に泊まったが、雲谷ロープウェイから上って飛来石や光明頂などの見どころに行くなら半日もあれば十分そうだった。それくらい歩けば黄山の景色にも慣れちゃって感動が薄くなってくるし…。

フロントに行くと、早めにチェックインができた。朝食券とカードキーを渡され、5階の6504室へ。設備は古めだけど広くてベッドもふかふか、快適そうだ。
*****

荷物を軽くして外に出た。北海賓館の前にはATM(あったのかよ)や広場、交番や小さな売店など設備が揃っている。そして小さな展望台があり、そこからは黄山の名所の一つ「夢筆生花」が見える(写真右側)。

細長い岩の上に、松が一本、生けられたようにそびえている(枯れてしまって、今はフェイクの松らしい)。中国人のいる所見立てと命名あり、黄山にもこういう名前付きの名勝があちこちにある。

清涼台と猴子観海


最初に向かったのはホテルに近い展望台の清涼台。ホテル近くの階段を上って行ったところにある。登りがきついけど10分程度でつくのでそこまで苦労しなかった。ここは人2人程度が通れる幅の小さな展望台。

そう、狭い展望台なのだ。

よって周りに気を遣うのだが……一番見晴らしの良い奥で、マダムが延々と、とにかく延々と自撮りしてて大変だった。

まぁ、中国ではこういう時に声をかけてどかすのが流儀なんですけどね。中国は「それがマナーだから」って暗黙の了解を共有できるような規模ではないので、自己主張とコミュニケーションを突き合わせて秩序を作っていく感じなんだけど…自分はこうして陰で文句を言うしかできない島国の小物なのである

後ろから韓国のおじちゃんたちがやってきて、お二人の写真を撮ってあげた後にようやく展望台が空いた。先端まで行くと、谷底まで見えてかなりの迫力。

そこからさらに階段を登っていくと見晴らし台があって、そのうえが見どころ「猴子観海」。深い峡谷が折り重なり、その手前の峰に小さな岩がポツンとあり、これがサルに見立てられている。

これはなかなか面白い。自然にこうはならないだろ!って不思議さがある。

中国人の命名癖って、フーンって思うこともあるけどこういう「おもしろい!」を気持ちだけで終わらせず言語化しているわけだから、クリエイティブな行為じゃんと思った。

紅楼夢』で賈宝玉と父親の賈政一行が庭園の建物に命名してまわる回があって、出てきた案を批評し合って盛り上がってるんだけど、命名のままに景色を見るんじゃなくて、命名のセンスも批評しながら見て楽しむものなのかなぁと思った。

少なくとも、誰かが名付けたものをフーンって見て歩くより面白いなと思った。

……で、ここでも自撮りマダムにひたすら待たされる羽目に。展望台の先端までは階段がなく足場が悪いので、上り下りには気を付けないといけない。滑って手をすりむいてしまった。踏んだり蹴ったりだ。

猴子観海からは北海賓館を見下ろせる。左下に見える足場は清涼台。階段があるのであまり苦労せず登ってきたけど、結構距離はあるんだな。

「猴子観海」の先には「獅子峰」があるけど、入口は閉まっていて登れなかった。そのまま来た道を引き返していた所ちょうど日が出てきて、それまで日陰になっていた岩山がくっきり見えるようになった。

Before


After


さらにAfter

これは清涼台からの景色。一度見た景色も見え方がガラッと変わってしまうので、ついまた見に行ってしまった。山の景色は本当に刻一刻と変わるので、自分が見たい景色が見られるかというのは本当に運次第だと思った。

写真撮影目的で来るなら、それこそひたすら腰を据えて待ち続けることになりそう。

排雲亭の夕日

ここまで見て一度ホテルに戻った。昼食に持参したカップヌードルを食べ、夕日を見に出発。ただし、黄山の展望台にもそれぞれ朝日向き・夕日向きとあり、そこはむろんリサーチ済み。

ご近所の清涼台や猴子観海は東向きで夕日は見られないので、事前に調べていた「排雲亭」に向かう。排雲亭は黄山の奥の方にあるが道のりは複雑ではなく、ホテル前の道を左にずっと進んでいけばいい。

ここからはほとんど上り。団結松のあるあたりで下りに切り替わり、松に囲まれた階段を延々と下っていく。

ここも道はしっかり舗装されている。

珍しい鳥がいて、山歩きのあいだ耳慣れない鳴き声をよく聞いた。茶色くて尾羽が白い鳥だった。植物は木蓮がよく咲いているけど、バラ科の花木はこれからという感じ。松以外の木はあまり印象に残っていない。

下りきるとホテルの西海賓館と排雲楼賓館があり、そこから道なりに奥へ進むと展望台の一つ、「排雲亭」に到着。名前の通り小さな石のあずまやがあり、目の前には切り立った崖。下をのぞくとくらくらする。

東屋の前方右手に突き出した展望台がある。……正確には「展望台」というほど立派ではなく、突き出ている岩を手すりで囲った「足場」程度のもの。ここからの眺めが一番開けているけど結構怖い。足場、一部隙間開いてるし。

こういう所に行くと、「もしこの手すりが突如崩壊したら」とかネガティブな妄想始めるタイプなので一番奥までは行けなかった…。

鎖にぶら下がってるのは、観光地によくあるカップルの錠前。黄帝が煉丹した山……ほにゃほにゃ術に通じた黄帝にあやかって?いや。整合性とか深く考えるもんじゃないな、こういうのは。記念写真と同じだ。

着いた頃はもう西日モードになって、山向こうの空が少し赤らんでいる。しかし、ふわっと霞がかったような感じで夕焼けは見えなさそうだ。

でも、くっきりした夕焼けよりこっちの方が黄山らしい。かすんだ山影の濃淡が、まさに山水画のようで幻想的だった。

うひゃー、絶対仙人とか住んでるよ…

日の入りは18時20分頃。これ以上は暗くなって危ないし見られるものもないので、早々に退散した。ひいひい言いながら北海賓館への階段を上りホテルに帰還。さすがに空腹だったのでレストランに直行した。

黄山の物価は輸送コストの問題で高い…という話は先程も書いたが、当然食材も高くつくので食事代も高い。

例えば、点心類が20元くらい、野菜料理やスープは50元くらい、肉料理は100元くらい。ちょっと高い中華屋さんくらいの値段だけど中国的には破格。

前述のように今回はインスタント食品も持ってきていたのだが、疲れてお腹が減っていると、高くてもちゃんとしたものが食べたくなる。

今回はシャオピンとトマトのスープ、飲み物を頼んだ。シャオピンは甘辛い漬物と肉が入っている固めのやつ。屯渓老街でも「黄山焼餅」の看板を見かけたので、地元の名物なんだろう。

高めではあれど、元が取れる美味しさだったのでよかった。

明日は日の出を見に行くので10時頃には寝る。こんな山の上だけど、バスタブにつかれるのがありがたかった。

つづく