壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

土地神ずかん【マカオ3・北東部】

マカオの土地神をひたすら記録するシリーズその3。
※ちゃんとしたフィールドワークではなく、ただの感想と記録なのでご了承ください。

これまで取り上げた沙梨頭と半島中央部は密集地帯なので独立の記事を書いたが、今回はざっくりと「それ以外」が対象。具体的には澳門半島の北部~東部の下町エリアを取り上げる。

このあたりは旧ポルトガル居住地の外にあるため歴史遺産は少なく、カジノホテルもないので「観光」という点では見所が少ない。

しかしその分、市場があったり、老舗の茶楼や伝統菓子店があったり、ちょっと九龍城を彷彿とさせる高層の集合住宅がみっしり並んでいたり、観光地ではないマカオの面白さを発見できるところ。

観光客が少ない所でゆっくりしたい人、一味違う街歩きがしたい人にもおすすめな、リピーター向けのエリアと言えるだろう。

というわけで、街歩きは抜群に楽しいのだが…この辺りは比較的最近開発されたエリアが多く、土地廟の数はあまりなかったりする。

というのも、野外の土地廟=王朝時代に公的な祭祀の必要性から作られたものなので、最近は土地神を祀るにしても各家の玄関口に祀るのだそうだ。時代の変化によって、土地神も公的⇒私的なものに変化しているのだ。

前回:
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雀仔園周辺

澳門半島東部の、ヴァスコ・ダ・ガマ公園付近にある「雀仔園」エリア

雀仔園街市(市場、写真奥)を中心に、生鮮食品店やパン屋、ロースト店、飲食店などが集まる庶民の台所と言った感じの場所だ。ここもあまり知名度は高くないと思うが、ローカルな生活感を感じられる魅力的なエリアだと思っている。

ちなみに私はこの近くにある皇都酒店(ホテル・ロイヤル)を定宿にしているので雀仔園には足を運ぶことが多く、思い入れのある場所でもある。

25.雀仔園福徳祠

場所 馬大臣街
文字
対聯 ? 地接崑山開寶■
形式
その他 施設のしっかりした大手土地廟

沙梨頭土地廟と並ぶマカオでは大手の土地廟で、祠というレベルではなく完全に「寺院」クラスの規模。旧暦二月二日の社日節(土地神の誕生日)には盛大なお祭りも行われ、劇や獅子舞を上演するなど、その規模はマカオ随一なのだそうだ。

本堂入り口には豪華な刺繍入りの垂れ幕や「粛静・回避」の立て札もあり、立派なたたずまい。

ちなみに本堂には入り口が左右に二つあり、左側の門には「公所」と題してある。中国で公所というと同業組合の事務所を指すが、この祠は雀仔園の公所が所有しているのだそう。食料品店が多いから、そういう業者の組合だろうか?

こういう同業組合の施設に寺院が付属するのはよくあることで、前回触れた三街会館の関帝廟も同じパターン。


福徳祠の隠れた見どころだと思っているのが、この八仙の壁画。楽しい場面だし8人の個性の描き分けが見事で大好き。特に李鉄拐のおちゃめな表情と、ちょっと離れてクールに佇んでる何仙姑がすごくいいね。

こういう男子のノリが始まると紅一点は居心地悪さも感じるだろうし、性別不明・女性説もある藍采和の存在って八仙の構成上結構大事なんじゃないかと思った。

タイトルは「世事は棋の如く、局局と新たなり」とあり、意外と深いテーマがあるようだ。

26.福徳祠となりの土地廟

場所 雀仔園福徳祠となり
文字 泰平社稷土地(以下不明)
対聯 なし
形式 神壇
その他

雀仔園福徳祠の隣にある土地神壇。たぶんこの神壇が先にあって、後から雀仔園公所が福徳祠を建てたんじゃないか。お供えも豪華。食べ物は分かるけど木の枝は何だろう。

【番外】高偉樂街の隠れ観音廟

場所 高偉樂街
文字 なし
対聯 なし
その他 ガジュマルの木の根元=ご神木?

これは土地廟ではなく観音廟。塔石体育館の階段裏手にあり、隠れキャラ度が高い。自分でもなんで見つけられたのか分からん。

白い観音像の周りをフェイクの花輪やタイダンサーの人形(東南アジアではよく見る)でふんだんにデコっており、彩度たっぷりエスニックな雰囲気が特徴。

そして、お約束の観音様大量発生。見るとホッコリする。

また、この祠は大きなガジュマルの樹の根元にあり、樹木信仰と結びついたものではないかと思う。今の形になったのがいつかは分からないけど、祠自体はたぶん体育館が建てられる前からこの木の下にあったのではないか。

2017年に再訪した時は、木の根付近にたくさんの線香が差し込まれていた。

蓮渓廟周辺

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澳門半島北部の中でも、紅街市~蓮渓廟あたりは、露天市場や骨董品の露店、ガラクタ市が集まる賑やかなエリア。この記事で書いた、葬式用の紙扎製品などが見られる竹林寺もこの辺りにある。

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27.大䌫巷の土地廟

場所 大䌫巷
文字 ??福徳正(以下不明)
対聯 白髪知公老 黄金賜福人
形式
その他 赤い石、泰山石敢當

露天市場の並ぶ義字街と、蓮渓廟に続く大䌫巷、そして渡船街が交わる三叉路にある。路地にひっそりとある土地廟も多い中で割と見つけやすい。

各道の様子を見守れるよう、土地神はこういう分岐路に祀られることもあるそうだ。


こちらは2010訪問時のもの。失礼ながら、地味だと思ってあまり写真を撮らなかった記憶がある。よく見たら、神位の隣に赤く塗られた石が置いてある。

この大䌫巷をまっすぐ西進すると歴史ある寺院の蓮渓廟があり、さらに進むと第1回で取り上げた沙梨頭・カモンエス公園周辺に行きあたる。

澳門半島北部

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マカオの北端には中国本土とマカオを隔てる関門があるが、ここもマカオの中では早くから集落が形成された場所。蓮峰廟(16世紀)や観音廟(17世紀)など由緒ある寺院も多く、特に役人の宿舎としても使われていた蓮峰廟にはかの林則徐も宿泊している。

しかし、歴史の古さや土地の広さの割に土地廟の数は少ない。理由は主に二つある。一つは昔は今よりも土地が狭く(南北に細長い感じ)、埋め立てなどで新規開発された土地が多いこと。二つ目は20世紀に再開発で昔ながらの村落が集合住宅地として作り替えられ、その際に取り壊された土地廟もあること。寺院の敷地内などに移転して命脈を保った廟もあるが、土地との結びつきは失ってしまった。

半島北部はいわば、土地神信仰の歴史を体現している場所と言えるだろう。

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28.台山福徳祠

場所 台山平民新邨(団地)
文字 蓮環社稷神位
対聯 老蓮蔭佑民安楽 環蓮普照藉神恩
形式
その他 神位のみ

初めてマカオに行った2010年はマカオ北部にあるホテル・ビクトリアに宿を取っており、これはその近くにあった団地の土地廟。名称はこちらのサイトより。

なので、これが澳門で初めて見た土地廟ということになる。ガイドブックの地図に「廟」と描いてあって見に行ったのだが()、当時の私は「廟」というからには中華街の関帝廟的なものを期待していたので、地味でガッカリした覚えがある。

神像もなく、当時は何を祀っているかもよく分かっていなかった。

※)ちなみに後から知ったことだが、この地図に載っていた「廟」はこの28番の土地廟とは別物だった。土地神過疎地の北部で、至近距離に土地廟が2つもあったのはびっくり。


後で知ったところによると、1990年代設立の新しい土地廟らしい。確かに、ここにある集合住宅も格子状の出窓があったり洗濯物がはみ出している他の住宅と違って、いかにも新しそうなすっきりした現代的なビルだった。

新しく土地開発が進むと、ちゃんとそこに土地廟が立てられるそうで、北部にも少ないながら土地廟がちらほらある。

ここは完全新規の廟ではなく、台山地区はこれまであった村落を取り壊して作った新興住宅地なので、神位は再利用しているそうだ。

神位の文言にある「蓮環」というのも取り壊された区域名で、今は地名として残っていない。土地神は土地と密着した存在なので、蓮環がないのに蓮環社稷神位を祀るというのも不思議な話に感じる。

物珍しげに見ていると、小学生くらいの少年がやって来て、線香を取ってお参りしていた。形式に変化はあれど、土地神信仰は「生きた文化」として連綿と生活に溶け込んでいるのだな。

少年は不思議そうにこちらを見ていたが、友人と一緒に公園に戻っていった。不審者がうろついていてごめんよ。

29.福和社

場所 美副将大馬路、観音古廟東
文字 福和土地■
対聯 風調雨順 国泰民安
形式 神壇
その他 傷みが激しい

マカオ北部、モンハの丘のふもとには二つの観音廟があり、同じ「美副将大馬路」沿いにある。これは東の「観音廟()」から西の「観音古廟」に行く途中に見かけた土地神壇。入り口の形は何となく西洋風に見える。

※)観音廟にはアヘン戦争後にアメリカと清が「望厦条約」を結んだテーブルがある。昔高校世界史で習ったが、この「望厦」がマカオのモンハのことなのだ。

余計なものがなくシンプル…というより、傷みも激しく放置気味のようにも見える。この時は朝だけど、マカオの人たちは(というか、中国人は基本的に)朝型にもかかわらず線香やお供えの形跡がないので、あまり人が来ないのだろうか?

2024年、7年ぶりにマカオに行った時は色々なものが塗り直されて綺麗になっていたので、ここも修復されているだろうか。それとも放置されているだろうか。朱色一色の空間は素敵だなと思う。

Googlemapを見たら「福和社」は載っていたがステータスに「レストラン」とあった。おかしいだろ…いや、まさかレストランになってしまったの?

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澳門の北東部は私もまだ未開拓のエリア。なので、今回はここまで。9月の訪澳でデータが増えたら加筆します。

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つづく
xiaoyaoyou.hatenadiary.jp