壺中天

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【水都で中国文化】中国文化における石と庭園

新しいシリーズとして、「水都で学ぶ中国文化」始めてみました!今回は石と庭園についてです。石の使い方にお悩みの方に!

 

中国文化の特徴の一つに、石を重んじる傾向が挙げられる。石は絵画や庭園の中に見られ、また文人の書斎にも小さな石が飾られた。このような石への愛好のルーツやそこに込められたシンボリズムについて調べました+水都で少し再現してみました。

 

【1.文人と石】

石を好んだのは中国の諸階層の中でも文人(知識人)層であり、実際これらの石は「文人石」とも呼ばれる。

唐代に白居易が太湖石を詩に詠んでいることから、唐代にはすでに文人の間で石が愛好されるようになったと考えられており、宋代科挙官僚となった文人=士大夫層が社会の各方面で重要な地位を占めると、奇石の愛好・収集熱が高まった。

石を愛した文人の例としては宋四大家にも数えられる蘇軾・米芾が挙げられ、特に米芾は毎日石に礼拝していた記録も残っているほどの熱狂的な愛好家であった。「風流天子」徽宗も石に魅了されたうちの一人で、庭園「艮嶽」造営のため全国から大量の石を集めた(悪名高い花石綱)。

 

【2.太湖石への愛好】

石の中でも特に愛好されたのが太湖石である。その名の通り江蘇省・太湖の湖底に産出し、水の浸食に由来するごつごつとした形状、無数の穴が開いていることに特徴がある。(蘇州・留園=東園の冠雲峰 江南四大名石に数えられる、水都でも東園の端にある)

太湖石が愛好された理由には形状の珍奇さ以上に、その形が持つ神秘性が関係している。太湖石の穴は一つ一つが洞窟(異界への入り口 Ex.桃花源記)に見立てられ、太湖石中には無数の小宇宙が内包されていると考えられていた。文人たちは部屋に置いた石を瞑想や集中のため用いたともいう。彼らにとって、太湖石は単なる観賞物ではなく精神性を秘めた存在だったのである。

ちなみに太湖石には美しいとされる条件があり、以下の4つを兼ね備えたものが良いとされた。例えば上の冠雲峰は、この4つを兼ね備えた名石と言われている。

(1)「痩」ほっそりとし、聳え立つ 

(2)「漏」垂直方向の穴がある 

(3)「透」水平方向の穴がある   

(4)「皺」皺とくぼみがある

 

【3.吉祥のシンボルとしての石】

画を嗜んだ文人たちは石の絵も描いているが、そこに登場する石は吉祥のシンボルとしての意味合いも持っていた。朽ちることのない石は長寿のシンボルであり、めでたい植物と組み合わされて様々な画題が作られた。代表的な例を挙げてみよう。

(1)松

石は同じく長寿を象徴する松と一緒に描かれることが多く、このモチーフは誕生祝いの贈り物として好まれた。

(2)萱草

萱草は中国では母親を象徴する花で、男子の誕生を願って身に着ける風習があった。宜男草という別名もあり、石とともに描かれると「宜男益寿」という、子孫繁栄と長寿を願う図案になる。

石×萱草、文俶ちゃんも描いてるよ!

(3)五瑞図

中国には「五瑞図」という画題がある。これは五瑞(五つのめでたい物)=石と椿樹(※)、萱草、蘭、竹を合わせたもので、正月に家内安全を願って飾る習慣がある。椿、萱草、蘭、竹はそれぞれ父、母、子、孫を象徴し、石は安定を表しているという。

※中国の椿は「つばき」ではなくセンダン科の「香椿(チャンチン・ライデンボク)」。

ちなみに文徴明にも五瑞図の作例があります。そんな意味があるとは露知らず、霊椿の木と萱草パック買いそびれました…。作りたかった!(蘭がないけど)

 

(4)牡丹、梅、桃

上記の三種(牡丹+石は必須、後はお好みで)と石が組み合わさると「長命富貴」という吉祥画題になる。華やかな牡丹は富貴花とも呼ばれ、富の象徴。富と長命を願う、また子供の成長を見守る画題とされている。(桃も長寿のシンボル 梅は不明。どちらかというと冬明けにいち早く咲くことから、若い少女にたとえられる花らしいけど…)

 

【4.山水画と石】

石の持つもう一つの重要な意味は山の見立てである。これは絵と庭園の双方に見られ、山水画は山・石と樹木によって画中に異世界を創り出し、一方の中国庭園も「人工的に自然を作る」ことをコンセプトとしている。二次元・三次元の違いはあれど、いずれも限られた空間に山水を再現して別世界を作り上げるという点は共通している。

特に山水画の技法を取り入れた文人庭園では山に見立てた石が多用され、事実大型の名石には、上述の「冠雲峰」など山にちなんだ命名も多い。

 

【5.庭園と石】

次に庭園技法という視点から石について見ていこう。ここでは庭園に使われる代表的な石の種類と、石を使った表現技法を紹介したい。

 

(1)石

造園に使われる石は様々であり、代表的なものとしては以下が挙げられる。


太湖石 

産地:江蘇省太湖の湖底。

先述の通り、圧倒的人気を集めた石。「旱石」と呼ばれる人造太湖石も流通した。


昆石   

産地:江蘇省昆山。白っぽい色合い。

「玲瓏石」という別名もあるので、水都の九玲瓏(ほかの石より色が薄め)はこの昆石かも?


霊璧石  

産地:安徽省霊璧県。乾隆帝に「天下第一石」と称賛された。叩くと美しい音が鳴る。


房山石  

産地:北京の房山など華北各地。

北方で築山によく使われ、「北の太湖石」とも呼ばれる。


黄石

産地:江蘇省常州など。

(上海・豫園 奥の楼閣の土台に注目)

石単体の形は良くないとされていたので、太湖石のように単独で飾られることは少なく、築山づくりに使われることが多い。


青石   

産地:北京郊外、紅山口。北京の庭園で一番よく使われる。


宣石   

産地:安徽省宣城。穴はなく、なだらかで重厚。

 

(2)造景の手法

次に実際の造園技法について。庭園における石の使い方としては、単体で飾る、山に見立てる、築山を作る等がある。中国庭園は空間演出を重んじ、一目ですべての景色が見えることを嫌う。そのため空間を区切ったり視界を遮ったりする装置として石が利用されたのである。以下は、実際に石を使った演出の一例である。

 

畳山…石を積み上げて築山を作る。(蘇州・盤門 例として合っているか分からないがイメージ)

 

庭山 …建物の前庭につくられ、周囲に木や山石を配置して見栄えをよくする。

 

壁山 …江南の小規模庭園でよくみられる。壁沿いにつくられる小さな石景。杭州・胡雪岩故居)

(上海・豫園)

うーん…壁にぴったりくっつけられないから再現度がイマイチ。

 

楼山 …楼閣の基礎となる築山。中に洞窟や谷川を作ることもある。杭州・胡雪岩故居 中には迷路もありました)

 

池山 …水中につくられた築山。

 

山洞 …内部が洞窟になっているもの。

 

置石 

…点石とも。要所に少量の石を配置すること。数については特に規定があるわけではなくシチュエーション次第、対置、群置、特置、散置などレイアウトは様々。(上海・豫園 これは中央を引き立たせる「対置」)真ん中の九玲瓏はもしかしたら豫園の玉玲瓏(↑の石)がモデルかも?

 

以上です。画像版もあるのでこちらもどうぞ!

【参考文献】

王敏・梅本重一編『中国シンボル・イメージ図典』東京堂出版 2003年 

宮崎法子『花鳥・山水画を読み解く』ちくま学芸文庫 2018年

吕明伟 編著『中国园林』中国红系列 时代出版传媒股份有限公司 2011年

王其钧 編著『中国园林图解词典』机械工业出版社 2021年