壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

澳門レトロ街歩き:福榮里/Beco da Felicidade


レトロな路地、通称レト路地(造語)が大好きなんですが、マカオのキングオブレト路地として広くお勧めしたいのがこの「福榮里」

セナド広場のちょっと西、グルメストリートの福隆新街のすぐ近くにある小さな住宅地だ。

自分が考えている考える良いレト路地の条件は、

①生活感(整然としすぎていない)
②レトロ感(古めかしさ)
③普段着感(集客を意識してわざとらしく手が加えられていない)

なんだけど、「人に薦める」となると、これに

①清潔感
②適度なスペース
③アクセスしやすい(他の観光のついでに寄れる)

辺りを加えなければならない。

その点この福榮里は、

①洗濯物や掃除用具は置いてあるが、道幅が広いぶんあまりに気にならない。生鮮食品店がある路地とかは匂いや虫が気になる場合もあるが、それもない。

②道幅が比較的広く、戸口も片側にしかない=路地特有の閉塞感や人を選ぶごちゃっと感が薄く、夏場にある「室外機から水が垂れてくる危険」もあまりない。

③観光地・福隆新街から直接アクセスできるため問題ない。

なにより福隆新街同様に清末の古建築なので、建物が綺麗で素の街並み自体のレベルが高いのだ。

というわけでこの「福榮里」はどのアングルから、どの時間に来ても、どの天候でも絵になる至高の路地と言っても過言ではないだろう。

以下、個人的な福榮里の魅力や見どころについて紹介していきたい。

成り立ちとあゆみ

福榮里は門を通じて福隆新街と連結しており、今では静かな路地裏だが、意外なことにここも表通りと同じく最高級の妓楼街「花國三街」の一つ。一帯の歓楽街の総本山的な場所であった。

福榮里には「火を起こす」という意味で「呼火街」という別名もあったそうだが、「火を起こす」の具体的な由来は不明。

20世紀後半に福隆新街一帯の遊郭は閉鎖され、表の福隆新街は観光地として修復・再整備されたが、こちらには開発の手が入らず、普通の住宅地になったのだろう。

エリアの歴史や案内はこちらからどうぞ。
xiaoyaoyou.hatenadiary.jp

見所

ここはもう…100mほどしかない小さな路地で歩き方というレベルではないので、ギャラリーも兼ねて個人的に好きな所を色々と。

福榮里の門と土地神


マカオの古い住宅地(「里」や「圍」)の入り口には門が作られていることが多いが、ここにも立派な門がある。

周囲の建物と同じように煉瓦の上に漆喰を塗った造りで、彩色や彫刻も施されており、マカオの中でも特に美しい里門だと思う。

それこそ昔は花街のハイライトだったのだから、多くの人がこの門を出入りしたんだろう。掲げられた「福榮里」の文字も、今よりはるかに期待と情熱を掻き立てるものだったはずだ。

今ではそういう派手な訴求力はなく、ちらりと除く路地の生活感、赤い土地神が演出するちょっとした非日常感が、通行人の目を引きつけていると思う。

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門の辺りを見てみよう。
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福栄里の門は単なる門というだけでなくちょっとした寺院も兼ねており、門の壁面には立派な土地神廟(住宅地の守り神)がある。

(2024年1月)

こういう門と土地神の祠が一体化しているケースは小新巷、善慶圍など他の場所でも見られるが、そういう場所の土地廟は割と大型で装飾も豪華なものが多いと思う。つまり歴史が古い・由緒があるんだろう。

頭上には渦巻き線香(塔香)をかけるための棹が何本か渡されていて、小さな線香がつるされていることも。奥には洋風の街灯もあり、タイルの標識とともにマカオらしい独特の華洋折衷・ノスタルジックな情緒を作り出している。

(2014年8月)

門周辺の空間は、訪れるタイミングによって少しずつ様子が違う。2024年1月に訪れた時は壁の漆喰がはげかかり、神廟の周囲にも雑然と物が置かれていた。

(蘭の花がかわいそうなことになっている…)

一方9月に再訪した際は壁も土地神も綺麗に塗り直されてピカピカになっていたので、定期的に手入れをしているんだろう。歴史の長い街・観光地ゆえに、ここの土地神はバックアップ体制がしっかりしていそう。

福隆新街に中秋節のイルミネーションを取り付ける作業中は、足場の格納場所にもなっていてちょっと面白かった。むしろ、それに合わせて門の修復・片付けをしたのかもしれない。

ちなみに。

この辺りにはちょっと思想強めの人がいるようで、もう一つの路地「福隆社(公仔圍)」の土地神と合わせて色んな手書きのメッセージが書いてある。下の写真のようにほどよい演出になっている場合と、ちょっと怖い場合とある。

特にマナー喚起系に念が強い。「町を汚したものは線香の火が頭髪に燃え移る」とか、そんな感じのことが書いてあったりする…。

マナー喚起は結構だけど、負のオーラが場に満ち溢れるからちょっと怖いし心象良くないんだよな…。せっかく監視カメラがあるんだから任せておきたまえよ、とも思う。まぁその是非はともかく、行ってみると何か文章が書いてあるかもしれない。

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門を抜けて、路地に入っていこう。
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古い住宅

路地を入ってすぐの所には、ひときわ大きく重厚な建物がある(写真左の建物)。ここは民家ではなく、出版社の「文化公所」

一度開いていたのを見たが、年季の入った外観とは裏腹にお洒落な観光案内所、みたいな明るい雰囲気で観光客も入れるようだった。本社というより旅行者向けのオフィスなんだろうか。

入ったことはないので、これ以上書くことはない。

その奥には、民家が軒を連ねている。2階建ての長屋で形式としては福隆新街や下環の方にあるものと同じ、マカオの昔ながらの建築様式だ。

家をよく見ると、色鮮やかな塗料が結構残っている。遊郭時代の名残だろうか?

でも「古い遊廓」というよりは現代的・ポップな印象で、聖ドミニコ教会や陸軍倶楽部に見られるような、パステル調の所謂コロニアルカラーともちょっと違う雰囲気。

でも海沿いに残っている古い建物(↑)とかも結構原色系だし、よく見たら福榮里の入り口の門にも黄色い塗料が残っている。マカオでは昔から、意外とこういうカラーリングの建物が多かったのかもしれない。

マカオの家の見所といえば、中華情緒満点な土地神の飾り。ここの建物はそれぞれ色合いがポップなので、1軒1軒、赤い土地神と外壁の組み合わせを見るのも中々楽しい。

戸口に飾る土地神・天官の神位は市販品を使ってる家が多いけど、ここには一番左のように、最初から建物と一体で造られたと思しき、古めかしいものもある。

これなんかは、壁と一体化しているタイプの古い土地神の上に市販品を飾ってるパターンだろうな。線香立ても錆まみれで、いつから使ってるんだろう、って感じ!

戸別に分かれている現代的な住宅と違って、こういう古い建物は軒先がつながっているので、こうやっていくつもの土地神を並べて見ることが出来て面白い。

生活風景

福榮里周辺では住民たちの生活も垣間見える。洗濯物が沢山干してあったり、縄跳びをしている子供がいたり、買い物に出ていくお母さんの姿があったり…。そんな生活感あふれる風景を切り取ってみた写真をいくつか。

よく見かけるのが、エプロンやコックコートなど飲食店関連の洗濯物。「西南飯店」とあるのは、表の福隆新街にある老舗レストラン。お店の人が住んでいるんだろう。

これも西南飯店の従業員さんのものだろうか?昔ながらの陶器の飾り窓がいいアクセントに。

なんてことはないモップも、絵になるのが福榮里という所。

雨上がりの、しっとりとした風情も素敵。

夜の歩き方


福榮里は夜もとても風情があるので、散策するのもお勧めです。先程も書いたように、路地の中でもここは比較的道幅が広く、家(戸口)も片側にしかなく、つまり陰になる場所が少ない。なので、他の路地に比べて夜も明るく精神的なハードルが低いというのがポイント。

さらに一本外に出れば、観光地の福隆新街というのも安心。夜には警備員さんもいるし住民の人通りもそれなりにあるので治安の問題は全然ない。

何を見に行くのか、と聞かれると何とも言えないけど……ただ夜の街並みを眺めて、壁越しにテレビの音声や食器を片付ける音を聞きながら歩いて、異郷の日常を感じるだけでも十分に楽しいところ。

何に出会えるかは、行ってみてのお楽しみでいいんじゃないかな。

とはいえ、
夜はちらほら歩行者やバイクが通ったり、住民たちの出入りもあるので重ね重ね邪魔にならないように気を付けたい。

隣接する道

(1)福隆新街
福榮里に隣接する古い通り。かつての遊郭のメインストリートで、今は飲食店が集まるグルメ街。エリアガイドの方で詳しく書いたけど、ライトアップは控えめというか、街灯メインのナチュラル系。

夜遅くまでやっているお店も多いし、深夜まで車両・バイク通行止めになっているのと警備員さんが何か所かに座ってるので夜も安心して歩ける。

(2)福隆圍


福隆新街の門から福榮里を通り抜けると、右には福隆新街に戻る道、左には別の路地・福隆圍がある。こちらは狭く薄暗い、「普通の路地」。行ってみたいと思う人と、そうでない人といると思う。普通の民家だから危険な感じはないけどね。

ただ、ここは路地自体というより入り口の空間が本当に素敵で、一見の価値があると思ってる。

福榮里と福隆圍が交わる所には高い位置に街灯があり、季節によってはその隣にピンク色の花が咲いていて、ちょっとアンダルシアとかあの辺の、南欧の風味を感じる。

昼は薄暗い普通の路地なんだけど、夜になると街灯の照明効果で一気にドラマティックな雰囲気になる。電線や洗濯物が乱舞するアジア的下町風景、花やタイルの南欧情緒、スポットライトの作り出す強烈な明暗が一体になって「他のどこにもない景色」を作っていると思う。

9月の旅ではこの辺りに宿を取ったので、夜にホテルに到着したあと福隆新街と福榮里を歩いたんだけど、これを見て旅先に来たワクワク感が一気に湧いてきたのを覚えている。

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以上、福榮里の紹介でした。
なんてことはない小さな路地だけど、マカオらしいノスタルジーと、東洋でも西洋でもない「不思議な町」感を味わえる素敵な空間。もちろん写真に撮っても絵になるので、とてもおススメの場所です。

ただし、人が住んでるので観光地気分で立ち入らないことだけ気を付けたい。邪魔にならないように・あまり長居はしないように。自分もちょっと、反省したことがあるので。

洗濯物を見るに表(福隆新街)で働いている人もいるみたいなので、訪れるならいわゆるビジネスアワーか、逆に夜遅めの時間帯等がいいかもしれない。