壺中天

歴史、旅行、ごはん、ゲームなどアジアなことを色々つづります。

【2017】マレーシア旅行記(1) 油断大敵プトラジャヤ


2017年のマレーシア旅行記です。

東南アジアでは、もともとシンガポールが好きでこの時点で3度行っていた。理由は中国、インド、マレー、ヨーロッパなど多文化が混ざり合った風土が好きだから。もともとマカオとかスペインのアンダルシアとか日本でも長崎とか、色んな文化が混ざり合っている所が好きなのです。

マレーシアにも同じ理由で興味を持ってはいたけど、強いモチベーションがなく実際に行く機会はなかった。行動に移したきっかけはアジアの夜景写真集を買って、プトラジャヤのプトラモスク(↑)と出会ったことだった。

イスラーム建築が好きで見に行きたい、でも中東方面は気軽に行きづらい、トルコには行ったけどトルコ式のモスクはなんか違う、というめんどくさい建築オタにとっては天啓のような出会いだった。

こらえ性のない人間なので、見たい!となったらいても立ってもいられず、早速マレーシア行きを計画。これまで気になっていたマラッカやペナンも旅程に加えての7日間の日程で旅立つことになった。例のごとく情報が古いし今回も反面教師的内容が色々あるけれども、何かのお役に立てば幸いです。

【今回の日程】
8/26(土):羽田~クアラルンプール
8/27(日):クアラルンプール~プトラジャヤ
※物価や交通手段など、内容は2017年当時のものです

貸し切りモノレールと静かな羽田

飛行機は23:30発で、羽田空港から。地下鉄とモノレールを乗り継いで空港へ。夜遅いのであまり乗客はおらず、車内は静かだ。

モノレールも車両には自分しかおらず、貸し切りのようなぜいたく気分で芝浦の運河やレインボーブリッジの夜景を楽しんだ。

チェックインカウンターはすいていたので手続きは一瞬で終わり、空港内で時間をつぶすことに。しかしこの時間だとお店もあまりやっていないし飲食する気分でもないので、展望デッキに初めて行ってみた。

カラフルな光に彩られた滑走路を挟んで、向かいにあるのが国内線の第一・第二ターミナル。スカイツリーや東京タワーも見えた。離着陸の轟音と強い風を浴びながら、しばらく夜の滑走路を眺めていた。結構いい気分だったから、夜便の時はまた行こうかな。

開いている店が少ないからか両替だけは結構並んだけど、手荷物検査と出国検査も早かった。搭乗口にも人はまばら。夜の空港は外が暗く人も少なく、昼間の空港に感じる非日常感や高揚感もなくただ静か。聞こえるものと言えば、動く歩道のゴウンゴウンという音だけ。

飛行機は何事もなく離陸。30分ほどすると食事と飲み物が配られた。食事とはいっても、時間が時間だけにおせんべいとカントリーマアムだけ。この時間に食べるのは...と思った一方、横にならないと寝付けない体質なので、血糖値下げて無理やり寝ようと思い、口にした。

すぐ眠くはなったんだけど…体がついてこなくて、結局あまり寝付けなかったな。1~2時間くらいか。

車窓から見るマレーシア

6時着の予定だったけどフライト時間は予定より短く、5:10には着陸した。空は真っ暗で雨も降ってる。搭乗口が開いておらずしばらく待機し、2~30分ほどするとようやく外に出られた。

クアラルンプール国際空港(KLIA)の到着ロビー。案内板には日本語表示もあるのでわかりやすい。入国審査と手荷物ピックアップもスムーズに行き、早速市内に向かう。

バスターミナルはゲートを出て右方。表示に従って進み、エレベーターで1レベル降りる。正面にはKLIAエクスプレス乗り場があり、左に回り込むとバスターミナル。市内にはどちらでも行けるけど、今回は安いバスの方を選んだ。

途中にはコンビニや、なつかしのダンキンドーナツがあった。

チケットカウンターを見ていると職員らしきおじさんに呼び止められ、どこへ行くのかと聞かれる。クアラルンプールだと答えると、カウンターに案内されチケット代を支払った。この時は6:50頃で、7:15のバスがちょうど出る頃合いだった。

こちらがバスの発着場。購入時にチケットを受け取らなかったのでちょっと心配だったが、カウンターで集計して乗る前に配るというシステムだった。

定刻通りにバスが発車する。もう外は明るくなりはじめ、東の空には茜雲が浮かんでいる。着陸時はいかにも天気が悪そうだったが、そう悲観しなくてもよさそうだ。天候に恵まれることを祈りつつ、しばしバスに揺られる。

道路沿いにはヤシの木が林立していたり現代的なモスクが見えたり、マレーシアの土地柄が見えてくる。機内で寝不足だったので寝る気満々だったけど、ついつい車窓に見入ってしまった。

空港の立地もあると思うけど、お隣のシンガポールより自然が多い印象。というか、ジャングルだらけ。あとは建設中のビルもよく目についた。

そしてマレーシアらしいのが、広告の女性がヒジャブをかぶったムスリムルックなこと!イスラームの国だから当然っちゃ当然だけど、新鮮だ。

晴れ間も見えてきて、気分は上々。8:00頃にはKLセントラル駅に到着した。上のフロアに上がると、バーガーキングがあったのでそこで朝食をとることにした。ワッパージュニアセットで9.5RM(250円※当時)。日本よりだいぶ安いな…。

レジは3つのうち1つしか開いておらず、回転はのんびりペース。なかなかいいな、と思ったのはポテトやナゲット用のケチャップとチリソースがセルフサービスで、プラカップに蛇口?から各自で注ぐこと。いらなかったり余ったりして、結構困ることあるので必要な分だけ取れるのは有難いな。

プトラジャヤへの道のり

今日の予定はハイテクアラビアンな行政都市・プトラジャヤ見学。その前に荷物だけホテルに預けるので、LRTでホテルのあるパサール・スニ駅に向かう。自販機は1or5RM札しか使えないので窓口で両替してもらう。この時は0.6RM(約13円!)とかなり安い。

日曜ということもあるかもしれないけど、LRTの間隔は結構長い。プラットフォームでしばらく待った。クアラルンプールの気候は意外と涼しく湿気はそこまで感じない。たぶん乾季なんだろう。最近の夏は日本にいるより、赤道付近まで来た方が過ごしやすいという変な状況になっていると思う。

LRTの車内は外国特有の香水っぽいにおいがした。パサール・スニ駅までは1駅なのですぐに到着。プラットフォームからは青い傘を戴いた国立モスク(ヌガラ・モスク)とKTMクアラルンプール駅が見える。

首都圏を結ぶLRTに対して、KTMはもっと遠方に通じている。駅は宮殿のように豪奢なたたずまいでインド・イスラーム様式だというけど、確かにあちこちに突き出た尖塔が、タージ・マハルの小ドームやミナレットに似ているような気もする。

後でちょっと調べたら、こういうドームのある四阿状のパーツは「チャトリ」といってムガル建築の特徴らしい。開口部が多いのは高温多湿のインドを感じさせるので、現地風にアレンジされたパーツなんだろうか。

そういや、旅行後にポリスストーリー3見たけど、ジャッキーがヘリからぶら下がって飛んでたのがこの辺だったな。

*****

エスカレーターを下り、駅の出口へ。見たところマレーシアはエスカレーター左乗り文化のようで、確かシンガポールも同じだったような。これって何で決まるんだろう。

今回泊まるGEOホテルはパサール・スニ駅のすぐそばだ。まだチェックインは出来ないので、荷物だけ預けてKLセントラル駅までUターン。今度はKLIAトランジット線に乗り換え1日目の目的地、プトラジャヤに向った。

KLセントラル駅を発ち、一路南へ。車窓から見える郊外の風景は、中国と似たような印象。規格化された団地が多くて、開発地が広がっていて、時にがれきのフィールドがあって、という。

それでもジャングルと、時折ヒンドゥー寺院や、ドームを載せた近未来的なイスラーム建築が、ここが確かにマレーシアだと教えてくれる。

アラビアンナイト幻想とプトラモスク

30分ほどでプトラジャヤ&サイバージャヤ駅に到着。そこからは「L15」のバスに乗ってプトラ・モスクに移動した。

プトラジャヤ首相官邸や官庁が集まる行政都市。複雑な形をした湖(プトラジャヤ湖)に沿って多くの公的施設が作られている。

人工的に計画された都市なのでレイアウトやデザインなどに統一感と秩序があり、マレーシアの他の都市で感じるような文化混淆感やアジアらしいエネルギッシュな雑踏はなく、洗練されて若干無機的で、独特な雰囲気のある街だと思う。

駅は中心部の西にあり、バスは湖を反時計回りに迂回してモスクに向かう。首相官邸前の大通りを北上、プトラ橋を渡ってモスク前のプトラ・スクエアに到着した。

プトラ・スクエア(プトラ広場)はロータリーを中心とした円形の広場で、衛星写真で見るとなんとも美しい幾何学模様。広場の西側、湖に突き出た形でモスクがあり、北には首相官邸がある。

モスクに入る前に、いったんプトラ橋に戻って写真撮影をすることにした。こちらが橋の上から見た首相官邸。エジプトのロータス模様を思わせる街灯も美しい。

橋から見た、念願のプトラモスク!

プトラモスクというと「ピンク色」が謳い文句になっているけど、自分の場合はむしろ「形」のほうに心ひかれていた

世界各地の建築が好きで、中東のイスラーム建築もその一つだ。

しかし自分の中の「イスラーム建築」というものは観念的なもので、いわばアラビアンナイトの幻を追いかける」ような類のものであったりする。

自分の中で…もしかしたら多くの日本人にとって、中東のイメージを形成してきたものといえばアラビアンナイトの挿絵とか映画のアラジンとか、外から見たデフォルメ的な中東像であると思う。そしてそれを代表するのが玉ねぎ型のドームやアラベスク模様であったりする。

つまりこういうのである。

一応「こういうのが見たい!」の具体的な基準はあり、それがイラン・イスファハーンのイマームモスクなのだが……
ja.wikipedia.org
イランは旅にはちょっとハードルが高いイメージ、しかしアラビアンコーストはどうしてもテーマパーク的な「不自然さ(非現実感)」があるし、日本で見られる本格的なモスクとしては東京ジャーミイがあるけど、あれはトルコ式で個人的にはなんか違う

んで、ちゃんと調べてみたらこういう感覚にも理由があり筋が通っていた。

先程書いたような「他者からの中東イメージ」=オリエンタリズム的な「玉ねぎドーム」のイメージのもとになったのは、18世紀のイランやインドで作られた建築らしい。そしてイマームモスクの建造年は1702年だからぴったり当てはまる。

逆にトルコのモスクはお椀状のドームでこれらとは雰囲気が異なるが、これはイスタンブールをかつて治めていたビザンツ帝国の様式に影響を受けたもので(アヤソフィアなど)、他のイスラーム建築とは一線を画した存在なのだ。

……そして後で知ったところ、プトラ・スクエアはイスファハーンのイマーム広場をモデルにしているらしい。ちょっと理屈っぽい話になってしまったけど、なぜプトラモスクに強く惹かれたのか、色んな意味でよく分かったな……と思う。

いざ、モスク内部へ


これがモスクの入り口。長方形の門と回廊があり、手前には花壇や噴水があって公園のように綺麗に整備されている。

ムスリムは門のある正面入り口ではなく、右側のローブカウンターのある入り口から入る。ローブを借りて、モスクの前庭へ。モスクの色合いに合わせてか、かわいい紅色のローブだ。女性はフードまでかぶる。

モスク入り口前は幾何学模様のタイルや噴水があったりと情緒満点。モスクの飾りや窓も、繊細な透かし彫りが美しい。中庭の床は、濡れているわけでもないのにツルッツルだ。内部には靴を脱いでから入場する。

外観だけでなく、中もピンク一色だ。左はドームの内側、右はメッカの方角を示すミフラーブ。緻密なアラベスク幾何学模様にうっとり。

色合いが可愛らしいじゅうたんにも、緻密な模様が織り込まれている。今は機械で作るんだろうけど、こういう綺麗に左右対称・パターン化したデザイン、手織りの時代はどうやって作っていたんだろうか。

絨毯があるのは勿論、礼拝をするから。中には観光客だけでなく、お祈りしているムスリムの方もいた。

*****

外に出て礼拝所の説明を読んでいると、モスクの職員の女性に「どこから来たの?」と声をかけられた。出身地を答え、イスラーム文化に興味があるんだというとスイッチが発動、五行や預言者ムハンマド、礼拝についてなどなど、熱心に説明してくださった。

どっさり日本語パンフレットももらってしまい、当時は社会科教員やってたので資料としてありがたくもらって帰った。彼女も昔は教員をしていたらしく、色々意気投合してカウンターに置いてあったお菓子までいただいた。

カラフルなマドレーヌみたいなサウジアラビアのお菓子と、不思議な形の「マレーシアクッキー」。前者は中東のお菓子らしく甘~い。後者は素朴な味わいでちょっと油っぽく、インドのプーリーに似てると思った。不思議なお菓子だった。

彼女に勧められ、モスク周囲の回廊を歩いてみることに。

緑豊かな回廊も素敵だけど、モスクは湖に突き出ているので、湖の見晴らしが抜群。空が広くて気持ちいいな!

これはモスク北のスリ・ペルダナ橋。周囲には建物が少なく、自然が多い。

南のワワサン橋方面は都会的な市街地で、橋の雰囲気もそんな感じ。

回廊を一回りして景色を堪能し、女性にお礼を言ってモスクを後にした。

*****

モスク周辺と遊覧船

モスクの外に出た後は、ペルダナ橋に行ってみようと思い、モスクの脇から北側に伸びる湖沿いの遊歩道を歩いた。花をつけた柳が風にそよいで、知らない鳥の声がする。

ここからは、水上に浮かぶ美しいモスクの姿が見られる。しかし道は途中で行き止まりになっており、ペルダナ橋方面には繋がっていない。

あとで地図で見たら、首相官邸付近は塀で囲まれているのでかなり東にぐるっと迂回しないと橋には行けないようだった。そりゃそうか。

いったん引き返し、モスク下のプロムナードで休憩がてら食事をとることにした。この辺りにはお店が並んでおり、モスクや遊覧船乗り場と合わせて一種の観光センターのようになっている。

昼食のお店は「Royal Hadramowt restaurant」という中東料理のお店でこちらはチキンケバブのセット。ケバブというかつくね風の「シシカバブ」の鶏肉バージョンという感じで、ごはんとスープがついている。おいしいが結構辛く、一緒にレモンティーを頼んでおいてよかった。

*****
外に出ると、日差しが強い。朝方は雨が降っていたので、天気悪いし……と思って帽子をスーツケースに入れてしまったツケが回ってきた。チリチリして、結構汗もかく。

しかし今日は夜景撮影をする予定だったので、日が暮れるまで時間を潰さなければいけない。なので、程よく時間がつぶせ、快適に過ごせる遊覧船に乗ることにした。

遊覧船の発着所はプトラ橋。大体一時間に1本の運航で、午前中は割安になる。

透かし彫りが美しいプトラ橋を離れ、いざ出航。

プトラジャヤ湖の中心部にはプトラ橋、北のスリ・ペルダナ橋、それと南にワワサン橋をはじめ3本の橋がある。

遊覧船のコースはまず北のペルダナ橋まで行き、Uターンして南のセントーサ橋まで行って戻ってくる感じだ。橋のデザインはそれぞれ趣が異なり、アナウンスによるとワワサン橋以南の2本はゴールデンゲートブリッジやシドニーのハーバーブリッジを参考にしているらしい。

左の銀色のドームは新モスク。この辺の建物は、伝統的なイスラーム建築のデザインを取り入れた現代建築が多いんだけど……現代通り越してすごい未来っぽいイスラームのデザインって幾何学模様やパターンを多用して理知的だから、よけいに未来感あるなと思う。

自分の足で歩き回るのが好きな性分なのと、気になるものがあったら好きなだけ立ち止まれるようあんまりこういうのを利用することはないんだけど、こういう建物は船に乗らないと見られなかったし、街の全体像をつかむにはよいツアーだった。

渇きのプトラジャヤ

船を下りたら、ロケハンタイムだ。夜に備えて、写真撮影スポットをリサーチする。そして今度こそ自分の足で町を歩いてみる!

基本的には湖の対岸からモスクがどう見えるかを確かめたかったので、プトラ橋から南下してワワサン橋を目指した。

プトラジャヤの橋の中でも、ワワサン橋はひときわ都会的・近未来的なデザイン。翼を広げた鳥のようにも見える、ケーブルのデザインがカッコイイ。

橋の上ではバイクに乗ったおじちゃんに写真撮影を頼まれた。彼はバングラデシュ人で、交通絡みの電気技師をしているらしい。華僑が各地の中華コミュニティに身を寄せるように、イスラーム教国同士の人の流れというものがあるのだろうな。

この橋の上からは、ちょうどプトラモスクと首相官邸が並んで見える。

で...

この時点で結構喉が渇いていたのだが、プトラジャヤは自販機やスーパー・コンビニなどの飲み物補給スポットが町中にあまりないので結構困る。

思い当たる所といえばプトラモスク周辺と、ワワサン橋の手前にマックがあり、そこに入るかどうか迷ったくらい。橋を渡り切ったあとは水際の遊歩道に降りたのだが、そのルートに入ってしまうと本当に補給が出来ない。

なので、このルートを歩くなら駅やプトラモスク付近であらかじめ用意しておいた方が無難だと思う。

んで、水分補給がない状況下、熱中症の恐怖を抱えながら延々と湖の西岸を歩き続ける羽目になり、ようやく水分にありつけたのはスリ・ペルダナ橋付近のカフェについてからのこと。ドリンクを一気に2杯も頼んでしまった

でも、しんどいばかりだったわけではない。湖の西岸からはプトラモスクがとてもきれいに見えた。官邸が陰に隠れて見えなくなるところ( ↓ )が個人的にはお気に入り(地図は後程)。

ここに差し掛かった時、ちょうど16:00のアザーン(礼拝を呼びかける詠唱)の声が聞こえてきて、とてもいい雰囲気だったのでその補正もあると思う。

イスラームの国に行くとおなじみのアザーン、異国情緒満点だし、厳かで身が引き締まる感覚もあって大好きだ。風も気持ちいいし、しばらく草地に座り込んで異国の響きに聞き入っていた。

あちこち歩いた所感について書いておくと、プトラジャヤは観光地としてそれなりに有名だし、日曜なのでもっと観光客がごった返しているのかと思ったけど、基本はあくまで官庁街であり高級住宅地。人がいるのはプトラモスク周辺くらいで、そこも思っていたほどの混雑ではなかった。街の方は、静まり返っていてひと気が全然ない印象。

でも夕方になると、湖沿いの遊歩道や緑地には親子連れやサイクリング・ジョギングする地元民が出てきたりする。マカオなどでよく見かける健康器具も置いてあった。つまり、暑いうちに出歩くのは観光客くらいのもんなんだな。

18:00頃にカフェを出て、近くの撮影候補地でひたすら日が暮れるまで待機。西日の頃合いで、プトラモスクがさらに深いばら色に色づいていた。カフェのあった建物はボートセンターなので、時折モスクの前をカヌーやボートが通り過ぎていく。

カヌーの掛け声、地元の子供たちの声、波の音、草地から聞こえる虫の声、そしてボートのエンジン音。ゆったりと静かな時が流れていく。

1時間くらいたつと空の青みが増し、影が濃くなってきた。モスクでは夜の礼拝も始まり、呪文のような節回しに、風にざわつく木々の音が唱和しているように聞こえた。

日の入りは19:30頃。日が沈むにつれて、少しずつ街の灯りがともっていく。水際の照明、橋の街灯、そしてモスクも。

プトラモスクの照明は緑色で、色が打ち消し合うのか暗くなるとモスクが白く見える。マジックアワーのうちに数枚撮影して、ペルダナ橋の方へ移動した。

街灯のデザインが美しいペルダナ橋。人は全然いなかった。

橋から見た首相官邸とプトラモスク。この時間になると、トレードマークのピンク色もすっかりどこかに行ってしまうな。

プトラモスク撮影ガイド

今日は一日、ひたすらプトラモスクを撮影していたなと思う。写真を撮るというのはただシャッターを押すだけの行為ではではなく、眼で見た魅力をどのように再現するか、どこから、どの角度から見れば一番きれいに見えるか、またはカメラの設定を考えるのも含めて、対象を知る・理解する行為でもあると思う。

そう考えると、1日中飽きもせず撮りまくっていたのだから、ストーカーレベルにこの建物が気に入っていたんだろう。

というわけで、せっかくだから「どこからどんな写真が撮れるよ!」というのを整理しておこうと思う。

今回は湖沿いを歩いて東西南北、あらゆるアングルからプトラモスクを撮影した。各地から見ると、地図に示したような見え方になる。④~⑥は正確な場所が曖昧なので、大体この辺、というイメージで見ていただければと思う。

個人的なおすすめは②と⑤、⑥なんだけど、湖西岸の道は「プトラモスクが綺麗に見える」以外に何かあるわけでもないし、ほぼ住宅地でお店もあまりないので(それこそボートクラブのカフェとレストランくらい)、その辺は覚悟を決めて行ってほしいと思う。レンタサイクルがあるので、足を確保していけばいくらか快適に回れるとは思うけど。

迷いのプトラジャヤ

というわけで1日中プトラモスクにストーカー行為を働いていたのですが
今はどうかというと……

また見たい!撮りたい!とはそこまで思っていない。

付きまといすぎて満足したのかもしれないけど、たぶん別の要因がある。

正直、この時のプトラジャヤ訪問はちょっとしたトラウマ案件になった。

孤独の道行き

というのも。

日曜だからか夜遅かったからなのか、帰りの足が全くなかったのだ。

スリ・ペルダナ橋からの帰路については、どうせタクシーが来るだろうからそれに乗って駅に帰ろう、と高をくくっていたのだが……全くやってくる気配がない。

仕方ない、プトラ・スクエアに行けば何かしらいるだろう!と思って行ってみたがいないし、バス停も見つからない。

広場では礼拝を終えたムスリムファミリーたちが思い思いに過ごしており賑やかだったが、その賑わいが逆につらい。仕方ないので官邸前の通りを下りつつタクシーを探そうと思ったがここでも全然出会えない。

1台停まってくれたと思ったら、リザーブのタクシーだったなんてこともあり。そしてバスも見かけず、そもそもバス停も見当たらない。もう正直、半泣き状態。

やけくそになって「もういい駅まで歩く!」と手元の地図を頼りに歩きだす。ガイドブックには駅まで3km=45分とあったので、歩けない距離ではない、というのは分かっていた。

今日は初日だし体力温存するつもりだったのになんてことだ。しかも歩道は全然人がいなくて怖いし。

しかし不思議と、世の中都合よく出来ているもので、救いの手が伸びてきたのだ。

優しい人々、巡り合わせの不思議

暗い通りを黙々と歩む私に、とあるご家族が声をかけてくださったのである。

駅に行きたいんですがこの道で合ってます?と聞くと、行けるけど危ないよ、ということなので近くにあったバス停で待つように言ってくださる。

しかしバスが来る気配もなく不安でおろおろしていると、そばについていてくださって。そんな折ちょうど空車のタクシーが近くに停まった。えー!?何このタイミング!

急いで車まで走ったため、ご家族には遠くからありがとうと言うことしかできなかった。本当に、なんて言ったらいいか分からない。もっとちゃんとお礼を言いたかった...。

タクシーのおじちゃんも気さくな方で、(電車の)行き先はどこ?とかクアラルンプールに何日いるの?とかプトラジャヤには何しに来たの?とか色々話しかけてくれた。
  
正直ぼられても構わん!という心持だったけどとんでもない、運賃は6RMで適正価格だし、駅に着いたらどうすればいいかも繰り返し教えてくれた。親切が身にしみる。

いい加減な人間なので旅をするとそりゃもう色々あるのだが、杭州のタクシードライバーさんといい、失敗をしてもそれだけのいい出会いがあるな、と思う。めぐり合わせっていうのはちょうどよく帳尻が合うようにできているのかもしれない。

あとからしてみると失敗したからいい思い出が出来た…とも思うんだけども、当時はやっぱりしんどかったわけで。

この日は何をしくじったんだろうか。プトラモスクは確かにガイドブックに「タクシーで行き、帰りの足を確保しておくといい」とあった。

バスで行けることを知ってから、帰りをどうするかをちゃんと調べなかったのだ。だって当然「駅からプトラモスク行きのバスがあるなら、プトラモスクから駅行きのバスがある」と思うじゃないですか。

でも2017年当時は、多分それがなかった。

今は「KR Travel 523」という観光用のバスの路線があり、プトラ広場からプトラジャヤ駅…どころか、クアラルンプール駅まで行くことができる。ただし手元のガイドブック(当時のもの)に記載はないので、割と新しい路線なのだろう。

バス停がなくてもタクシーが捕まるだろう、と軽々に考えていたがこれまた誤算だったのだ。東京育ちなので「街にはタクシーがいるのが当たり前」の感覚で生きてきたんだけど、日本でも地方都市に行くと流しのタクシーが全然いないことはあり、都民の驕りを反省することがある……

なので、思い込みに頼ってちゃんと情報収集しなかったのが今回の失敗を招いたのだろう。旅も慣れてしまうと逆にこういうしくじりが出てくるので、毎回ちゃんと下調べは怠らないようにしたい。

*****

帰りの電車については特に言うこともなく。GEOホテルに戻ってチェックインすると、フロントの方も待っていたようで、ようやく来たか、と言いたげなほっとした笑顔を浮かべていた。

やっとホテルの部屋に入った。1019号室だったので窓からは国立モスクなどが見え、それなりに眺めがよかった。反対側だとペトロナスツインタワーとかも見えたんだろうなぁ。

GEOホテルは駅に近いので部屋にいると電車の音が聞こえる。うるさいほどではなく、電車走ってんなぁ、と感じる程度。LRTは24時近くまで動いていた。

明日はマラッカに移動する。充実していたけど、いつものごとく波瀾の多い一日だった。

【参考文献】
深見奈緒子イスラーム建築の見かた 聖なる意匠の歴史』(東京堂出版 2003)

つづく
xiaoyaoyou.hatenadiary.jp