壺中天

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澳門レトロ街歩き:リバーシブルな楽しみ【小新巷】


営地大街に面する路地のひとつ、小新巷。内部は住宅や事務所が多めで、飲食店や生鮮食品店のある路地は衛生的な抵抗感がある……という人にも歩きやすい道だ。

ここは結構宣伝に熱心で、庇山耶街側の門をはじめあちこちにポスターや案内が貼ってある。その内容に従って、道の謂れを辿ってみよう。

成り立ちとあゆみ


小新巷のポルトガル名は「Travessa Dos Alfaiates」。入り口にある張り紙によると、これには「裁縫街」という意味があるそうだ。(ちなみにクレヨンしんちゃんは、中国語で「蠟筆小新

19世紀のマカオには自由貿易港として世界各地から人が集まり、多種多様な服装の需要から裁縫業が発展を遂げることになった。その中心だったのがこの小新巷で、かつては裁縫職人の店舗が軒を連ねていたそうだ。

今でもこの道には、老舗の裁縫店が何軒か残っている…というが、この説明を読んだのが帰国後だったので歩いた時には気付かなかった。写真をよく見たら、廃屋の壁に「百年旺舗 熱售中⇒」とポスターが貼ってあったので、現役のお店があるようだ。次回訪れたら探してみたい。

そもそも、隣接する庇山耶街一帯は手工業が盛んなエリアで、木工業者の同業会館(上架行会館)があったり、神像工房が集まる新埗頭街があったり、今でもその名残をとどめている。小新巷の裁縫業もその一つだったのかもしれない。

ちなみに20世紀初頭、この一帯では娯楽商売が盛んになり()、賭場や妓楼が各地に開かれ、小新巷にも「回回攤館」という妓楼があったそうだ。市場の営地街市が出来るまでは露店も集まったというから、結構雑然としていた時期もあるようだ。

※)この時期はアヘン貿易の停止と重なる。庇山耶街はアヘン煙管の名産地で周辺にもアヘン窟があったそうだし、その代替として始まったのかもしれない。あくまで推測なので、正式な年代については調査中。

現在の小新巷は今風のカフェがあったりアートスペース(藝術工作室)があったり売り込みに熱心で、街路も清潔、付近の路地の中でもカジュアルな雰囲気があると思う。

オープンなスタンスだし見所も多いし、気軽に歩ける路地としておすすめだ。

歩き方

小新巷は庇山耶街と営地大街を結んでいる。どちらから入るのがいいかというと…これが、どちらにも良さがあるので難しく、結論から言うと往復するのが一番おすすめ

小新巷は道の途中で稲妻状に折れ曲がり、その前後で趣きが変わってくる感じだ。

庇山耶街(西側)から


庇山耶街沿いには屋根付きの立派な巷門があり、さらにこちらの方面にはカフェなど小綺麗な建物が集まっていて「お客さん向けの顔」という感じ。

門の作りは福榮里など他の古い路地と似ていて、屋根の下は土地神のあるトンネル状の空間になっている。土地神が付属している建物は集合住宅で、入り口の看板には「1991年建」と書いてある。現在の祠や門もその時作られたのだろうか?

大きな渦巻き線香がぶら下がっていることもあり、風情があるけど頭上注意。

ここの土地廟は割と豪華で、祀られている神様も色々だ。本尊の土地神と観音像、そして関帝と包公(包拯)の神位がある。土地神の隣には紙扎やお供えの金紙を焼く、小さな化寶炉も。

包公廟もあるし街角に祠が作られていたり土地神廟に合祀されていたり、マカオではあちこちで包拯が祀られているけど中華圏でも結構珍しいというか、マカオのお国柄だと思う。

内部から門の方面を見たところ。

西側から巷の半ばほどまで入ってみると、リノベーションしたのか割と小綺麗な建物がいくつかある。

営地大街(東側)から


一方の営地大街側は、ガラッと印象が変わってむしろ古き良きマカオの路地裏という感じ。小新巷の北側は駐車場になっており、道に面したこの建物も廃屋のようだ。アヘン窟があったというのはこの辺だろうか?

旅行者目線では、高い建物がないおかげで開放感があり、気持ち的に歩きやすい。

こちらから入ると、突き当たりにある石敢當の非日常性が、いい感じに冒険感を演出してくれる。なんとはなしに路地に入って、行く手にこれが見えた時のワクワク感といったら。

小新巷のようなマカオの古い路地には、直線ではなく、道の中央でジグザグになっている所がいくつかある。さらにこういう道の切り替わりの地点には、大体土地神や石敢當など何かしらの魔除けの存在が設置されている。

「悪霊は真っ直ぐにしか進めない」という考え方があるので、それを意識してわざとこういう設計になっているんだろうか。(中国庭園にある九曲橋や、わが国でも沖縄で見かけるT字路の石敢當はその「習性」を利用した魔除けの仕掛け)

だとすれば、ポルトガル人主導で作られた道にはこういう仕掛けはないと思うので、ジグザグ状の道=歴史が古い、または都市計画ではなく自然発生的に生まれたもの……と考えていいのかな(ポルトガルマカオ市政府が道の建設を進めていくのは19世紀後半から)。

これについては、各地で見つけたジグザグ道をリストアップして改めて考えてみたい。

夜の小新巷

小新巷は道幅が広めなので、夜もあまり暗くなく歩きやすい。住宅地なので、出入りする住民や通り抜けする人たちがちらほらいて、心細い感じはない。

以前通った時は、玄関口に出て金紙(お供えもの)を燃やしている住民の姿があった。そういう面白い風景に出会えるかも。

土地神と門周辺。火がついたばかりの線香が、暗がりに小さな灯りをともしていた。

営地大街方面は、西側に比べて暗め。空き家になっているっぽい建物や、1階がお店でシャッターが閉まっている建物も多いので。

暗いだけで、危ないということはないけど。

まとめ

西側からカフェや老舗を訪ねてカジュアルに楽しんでも良し、東側から廃墟と石敢當の織りなす非日常感を味わっても良し、ささやかな道ながら色々な顔に出会える小新巷。観光客の誘致にも熱心なので、これからさらに見所が増えていくかもしれない。

サンパウロ天主堂方面とセナド広場をつなぐ営地大街沿いにあるため、ついでにも寄りやすい。気になった方はぜひ歩いてみて欲しい。

隣接エリア

営地大街
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趙家巷
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参考文献

陳鵬之『澳門土地公 街區神壇掃描』文化公所